平成16年(ワ) 第16702号 損害賠償請求事件
原告 ○○○○ほか118名
被告 西東京市

             準備書面(1)

                           平成16年12月20日

 東京地方裁判所民事第7部合B通係 御中

                       被告指定代理人
                           榮   岳 夫
                           池 原 桃 子
                           板 山   久
                           安 村 和 美
                           大 川   強
                           管 野 照 光
                           佐 藤   豊
                           内 田   誠
                           加 地 敏 朗
                           岡 村 保 彦

 被告は,本準備書面において,訴状記載の請求の原因について認否を行った上で
 (第1),被告の主張を述べる(第2)。

第1 請求の原因に対する認否
 1 「1 本件訴訟の意義」について
   認否の限りでない。
 2 「2 当事者」について
  (1)「(1)原告ら」について
    原告らが平成16年11月1日の時点で西東京市に居住し,同市に住民票
   を有することは認め,その余は否認する。
    住民票コードは,住民票の新たな記載事項であるにすぎず,人に対して番
   号を付すものではない。
  (2)「(2)被告」について
    認める。
 3 「3 住基ネット」について
  (1)第1段落について
    住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)が全
   国のすべての地方自治体で作るコンピュータネツトワークであること,住民
   基本台帳カード(以下「住基カード」という。)がICカードであることは
   認め,原告らが主張する@ないしBの特徴を備えた制度が日本にしかない特
   殊な仕組みであることについては不知。その余は否認する。
    原告らは,住基ネットが国民一人一人に異なる11けたの番号である住民
   票コ一ドを付けるものであると主張するが,住民票コードは前記2, (1)のと
   おり人に対して番号を付すものではない。
    また,住基カードは,住民からの市町村長に対する交付申請に基づき交付
   されるものである。
  (2)第2段落について
    住基ネットが住民基本台帳法(平成11年法律第133号による改正後の
   もの。以下「住基法」という。)に定められた制度であることは認め,その
   余は,住民票コードは人に対して番号を付すものではないから否認する。
  (3)第3段落について
    住基法上,原則として,各市町村が独自の判断で住基ネットに接続しない
   ことを認める規定が存在しないことは認める。
  (4)第4段落について
    住基カードが,住民からの市町村長に対する交付申請に基づき交付される
   ものであることは認めるが,「第33条の44第1項」とあるのは,「第3
   0条の44第1項」の誤りと思われる。その余は否認する。
   住基カードにおける個人情報保護のためのセキュリティ対策は,制度,技
   術及び運用面において講じられており,被告においても十分な検討をしてい
   る。
  (5)第5段落について
    住基法上,市町村長は,住民票の記載,消除又は氏名,生年月日,性別,
   住所及び住民票コードの全部若しくは一部について記載の修正を行った場合
   には,当該住民票の記載に係る本人確認情報を都道府県知事に通知するもの
   とされていること(住基法30条の5第1項),都道府県知事は,同法別表
   第1の上欄に掲げる国の機関又は法人(以下「国の機関等」という。)から
   同表の下欄に掲げる事務の処理に関し,住民の居住関係の確認のための求め
   があったときに限り,住民基本台帳法施行令(以下「住基法施行令」という。)
   で定めるところにより,保存期間に係る本人確認情報を提供するものとされ
   ていること(同法30条の7第3項),都道府県知事は,指定情報処理機関
   (同法30条の10第1項に定める総務大臣が指定する者。以下同じ。)に,
   同法30条の7第3項の規定による本人確認情報の国の機関等への提供の事
   務を行わせることができるとされていること(同法30条の10第1項3
   号),財団法人地方自治情報センターが指定情報処理機関であること,これ
   らの仕組みが平成14年8月5日から実施されていることは認め,その余は
   不知。
  (6)第6段落について
    住基カードの交付を受けている者の転出・転入手続において,転出地市町
   村長が本人確認情報以外の事項についても転入地市町村長に通知する場合が
   あること(住基法24条の2,住基法施行令24条の4),これが平成15
   年8月25日から実施されていることは認め,その余は不知。
 4 「4 事実の経過」について
  (1)第1段落について
    原告らの主張の具体的内容が不明であるため,認否できない。
  (2)第2段落について                   、
    平成10年3月こ住民基本台帳法の一部を改正する法律案が閣議決定され
   たことは認める。
  (3)第3段落及び第4段落について
    本件請求といかなる関係のある主張であるかが不明であるので,認否の限
   りでない。
  (4)第5段落について
    認める。
  (5)第6段落について
    第1文については,「住基ネット法案」が「住民基本台帳法の一部を改正
   する法律」(平成11年法律第133号。以下「改正法」という。)の法案
   を指していると解した上で認める。
    第2文は,改正法附則1条1項本文が「この法律は,公布の日から起算し
   て3年を超えない範囲において政令で定める日から施行する」とし,同条2
   項が「この法律の施行に当たっては,政府は,個人情報の保護に万全を期す
   るため,速やかに,所要の措置を講ずるものとする」としていることは認め
   る。
  (6)第7段落及び第8段落について
    本件請求といかなる関係のある主張であるかが不明であるので,認否の限
   りでない。
  (7)第9段落について
    原告大塚淑夫及び同谷澤利一郎を除いて,酉東京市長が,平成14年7月
   20日ころまでに,原告らの住民票に仮の住民票コードを記載し,東京都知
   事に通知したことは認める。これは,改正法附則7条の規定に基づき,本人
   確認情報の処理及び利用等の事務の実施に必要な準備行為として行ったもの
   である。上記2名の原告については,当時西東京市に住民票を有していたこ
   とが確認できない。
    住民票コードを原告らに「つけた」とする点は否認する。
  (8)第10段落について
    西東京市長が原告らに対して住民票コードを記載したことを通知したこと
   は,原告大塚淑夫及び同谷澤利一郎を除いて認める。上記2名の原告につい
   ては,平成14年8月5日時点で西東京市に住民票を有していたことが確認
   できない。
    住民票コードを原告らに「つけた」とする点は否認し,その余は不知。
  (9)第11段落について
    原告らに住民票コードが「つけられたまま」であるとの点は否認する。そ
   の余は,「無効化」の意味が不明であるため認否できない。
  (10)第12段落について
    被告が改正法の廃止に向けた努力をしていないことは認めるが,これは,
   その必要がないからである。
 5 「5 住民票コードの特異性」について
   住民票コードが11けたの番号であること,住基法上,異なる人の住民票に
  同じ番号が記載されることがない仕組みとなっていること,住民票コードは本
  人の申請により変更することが可能であること,住民票コードを変更した場合
  に変更前の住民票コードが一定期間に限って保存されること,住民票コードを
  含む本人確認情報の提供については,法律又は条例の定めが必要であることは
  認め,その余については事実に関する主張でないから認否の限りでない。
 6 「6 住民票コードの違法性」について
  (1)「(1) 住民票コードをつけたことの違法性」について
   ア 「(@)人格権の侵害」について
     争う。
   イ 「(ii)プライバシー侵害」について
     争う。
  (2)「(2)住民票コードの抹消又は送信停止しないことの違法性」について
    争う。
 7 「7 責任」について
   被告が行う住民基本台帳に関する事務が自治事務であること,住基法36条
  の2の規定の存在は認め,その余は争う。
 8 「8 損害」について
   争う。
 9 「9 結論」について
   争う。

第2 被告の主張
 1 原告らの権利ないし利益の侵害の有無を論じる以前に原告らの主張が失当であ
  ること
   本件において,原告らは,国家賠償法1粂1項に基づいて損害賠償を請求し,
  西東京市長が原告らの住民票に住民票コードを記載したこと,及びその後も住
  民票コードを抹消しないまま東京都知事に対して住基法30条の5所定の通知
  をしていることについて,国家賠償法1条1項の違法性があると主張するよう
  である(訴状7,8ページ)。
   しかしながら.以下に述べるとおり,原告らの主張は失当である。
  (1)国家賠償法1条1項の「違法」の意義
    国家賠償法1条1項の違法とは,公務員が個別の国民に対して負う職務上
   の法的義務に違背することをいう(最高裁昭和60年11月21日第1小法
   廷判決・民集3 9巻7号1512ページ)。
    また,公務員が通常尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と行為をしたと認
   め得るような事情がある場合に限り,同法1条1項の違法の評価を受ける(最
   高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863ページ,
   最高裁平成11年1月21日第一小法廷判決・判例時報1675号48ペー
   ジ)。
  (2)住基法の定め
    住基法は,市町村は,住民基本台帳を備え,その住民につき,7条に規定
   する事項を記録するものとし(同法5条),市町村長は,個人を単位とする
   住民票を世帯ごとに編成して,住民基本台帳を作成しなければならない(同
   法6条1項)。そして,同法7条は,住民票の記載事項として住民票コード
   を規定しており(同条13号),改正法附則3条は,市町村長は,改正法の
   施行日(平成14年8月5日)に,改正法の施行の際現に住民基本台帳に記
   録されている者に係る住民票に住民票コードを記載するものとする。
    また,住基法30条の5第1項は,市町村長は,都道府県知事に対し,住
   民票の記載,消除又は同法7条1号から3号まで,7号及び13号に掲げる
   事項の全部若しくは一部について記載の修正を行った場合には,当該住民票
   の記載等に係る本人確認情報(氏名,生年月日,性別,住所及び住民票コー
   ド並びにこれらの変更情報をいう。以下同じ。)を通知すべきことを規定し
   ている。
    このように,市町村長が,住民票に住民票コードを記載しなければならな
   いこと,都道府県知事に対し住民票コードを通知しなければならないことは.
   法律上明確に規定されている。
  (3)西東京市長の行為について国家賠償法1条1項の違法がないこと
    以上によれば.西東京市長による住民票への住民票コードの記載及び住民
   票コードの東京都知事への通知は,上記のような明文の規定に基づくもので
   あり,住基法に適合するものであって,西東京市長の上記行為が,同人が職
   務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず漫然と行われたものとおよそ評価し
   得ないことは明らかである。
    したがって,西東京市長の上記行為が原告らの権利ないし利益を害するか
   否かを論じるまでもなく,同人の上記行為に国家賠償法1条1項にいう違法
   がないことは明らかであるから,原告らの主張は失当であるというほかない。
 2 住民票コードの記載ないし通知が原告らの権利ないし利益を侵害するものではな
  いこと
   以上の点をおくとしても,西東京市長による住民票コードの住民票への記載
  ないし住民票コードの東京都知事への通知は,国家賠償法上保護された権利な
  いし利益を何ら侵害するものではないから,原告らの主張は失当である。
  (1)人格権の侵害の主張について
    原告らは,住民票コードの住民票への記載について,国民を「行政機関と
   の関係において家畜や工業製品などと同じ扱いにすることは,明らかに人格
   権(憲法13条)を侵害する」旨主張する(訴状7ページ)。
    しかし,原告らが主張する人格権は,その概念そのものが抽象的かつ不明
   確であるばかりでなく,具体的な権利内容,成立要件,法的効果等も不明で
   ある。
    また,この点をおくとしても,住民票コードは,住基ネットにおいて本人
   確認を確実かつ効率的に行うために使用される10けたの数字及び1けたの
   検査数字にすぎず,住民票コードを住民票に記載したからといって,原告ら
   が主張するように,「国民を‥‥家畜や工業製品などと同じ扱いにする」こ
   とにはならず,何ら人格権を侵害するものではない。
    したがって,原告らの主張はいずれにしろ失当である。
  (2)プライバシー侵害の主張について
    原告らは,「住民票コードを国民ひとりひとりに付けることが個人のプラ
   イバシー侵害の危険を確実に飛躍的に高めているという意味において,住民
   票コードをつけること自体がプライバシー(憲法第13条)の侵害に当たる」
   旨主張する(訴状7,8ページ)。
    しかし,原告らの主張するプライバシーの具体的内容や,いかなる状態に
   なれば原告らの主張するプライバシーが侵害されるのかは不明であり,また,
   住民票コードを住民票に記載した段階で,プライバシーを現に侵害したとい
   うのか,侵害の危険があるというのかも明らかでなく,原告らの主張は不明
   確である。
    また,その点をおくとしても,行政機関における住民票コードを含む本人
   確認情報の利用については,目的外利用等の禁止(住基法30条の34)や
   告知要求の制限(同法30条の42)など本人確認情報の保護規定が定めら
   れており,その結果,市町村,都道府県,指定情報処理機関及び国の機関等
   においては,住民票コードを利用していわゆるデータマッチングを行うこと
   はできないのである。このように,住基法は,住民票コードを含む本人確認
   情報の利用を厳しく制限しているのであるから,住民票コードを住民票に記
   載したことや東京都知事に通知したことから直ちに,プライバシー侵害の危
   険性が高まるものではない。
    なお,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償が認められるためには,原告
   の法的利益が現実に侵害されていることを要するから,プライバシー侵害の
   危険があるということだけでは,国家賠償法上保護されるべき法的利益が侵
   害されたといえないことは明らかである。
    したがって,原告らの主張はいずれにしろ失当である。

第3 結語
   以上に述べたとおり,原告らの主張が失当であることは明らかであるから,
  原告らの請求は速やかに棄却されるべきである。