平成16年(ワ)第16702号損害賠償請求事件

                             意 見 陳 述 書

                                           2004年(平成16年)10月25日  

東京地方裁判所民事第7部合議B係  御 中

                                                  原 告   橋 良 彰

 私は西東京市南町に1983年以来20数年間、後述の期間を除き在住しております高
橋良彰と申しまして、年齢はこの10月で67歳になります。この地へ移り住んできた
ときには小学生、中学生の子どもたちとの4人家族でしたが、2人とも巣立っていき、
現在は妻と細々と年金暮らしを送っているごく平凡一市民です。

 さて、一昨年8月、突然わが家へも私及び妻に対して住民基本台帳法に基づき付番さ
れた登録番号の通知状が舞い込んでまいりました。新聞やテレビ等を通じて、本件につ
いての予備知識は若干あったとはいえ、現実に自分たち自身に番号が付された上に、今
までまったく関知しない地方自治情報センターなる総務省と関係が深そうな上部機関
に私どもの個人情報が通知されたことを知ったときには、身体が震え、癒えようもない
ほどの恐ろしさと怒りを覚えました。一体、なぜ私たちは人間なのに家畜や工業製品の
ように番号を付され、他人に知られたくないプライバシー情報を報告せねばならぬ義務
があるのでしょうか。また、市長は中央省庁からの指令だとはいえ、住民個々の意思を
質すことなく、また説明もせず勝手に事を進めてしまったのでしょうか。地方自治の精
神は一体どこにあるのでしょうか。

 ついでながら、冒頭に申し上げたように、この20年強、当市に居を構えている間、
私は仕事の関係で福島県いわき市に数年間居住し、一時その地に住民登録をいたしてお
りました。ここへと、ここからの転居証明などの手続に特別、問題があったり、手続上
の煩雑さを感じたことは一度もありませんでした。
 番号通知を受けたのを機に住基ネットについて、書籍を読んだり、いろいろな関連の
集会等に参加しながら学習いたしました。そして、私なりに結論づけたのは、まず第一
に、これは日本の経済再生のために森前首相以来、政府が追求してきた一経済施策であ
り、従来のハコモノ投資にかわるものであるということです。次に国民総背番号制に準
じる行政の効率化を推進さすことを企図したものであり、そして、究極的には国による
国民の管理、支配を目標としているのではあるまいかということでした。莫大な費用を
かけて各自治体にIT機器への投資を強い、さらにメモリー量の膨大なICカードが発
行されるのは、次へのステップを考慮に入れなければ、およそばかげた投資と言わざる
を得ず、各種税金、旅券・査証、運転免許証ほか各種資格証明、健康・介護保険、年金、
徴用・兵役適格者の掌握などこれらの事項の管理をも射程に入れているであろうことが
透けて見えます。

 いろいろ考えた末、私は妻とも話し合いの上、通知を受けた番号を返却することを決
心して、理由を書き添えて、昨年4月に市長宛てに配達証明付きで郵送返却いたしまし
た。

 個人情報の漏洩は、それ自体由々しいことで、大きな問題であります。それにもまし
て、強大な国家権力が個々人としては力の弱い一般民衆の情報を全国民について保有す
ること自体が大問題だと考えます。それこそ、今までの歴史に例を見ないグロテスクな
管理社会を呼び込み、取り返しのつかない事態になりかねません。
 そこで私は、市長が私たち住民に何の相談もなく、住基ネットに参加することを決め、
住民に内緒で住民ひとりひとりに番号を付けたことについて、私たち住民がどのように
受け止め考えているかを知っていただき、住民のために何をすべきなのかを真剣に考え
ていただくために、この訴訟に参加することにしました。
 この住基ネットという制度は非常に深刻な問題を孕んでおり、運用の仕方次第で予期
せぬ事態を招きかねません。市長が住民の幸せを本当に念うなら、どうぞ地方自治を護
り、民主主義を死滅させないために、勇を鼓して当市がこのシステムから離脱するよう、
いまから具体的な行動を始めてください。

 終りに、本日この様な陳述の機会を与えて下さったことに対して裁判官殿に心から
感謝申し上げます。