平成16年(ワ)第16702号損害賠償請求事件

                  意 見 陳 述 書

                         2004年(平成16年)10月25日  

東京地方裁判所民事第7部合議B係  御 中

                           原 告  佐 藤  智 子

 西東京市柳沢の佐藤智子と申します。この地に住んで、来月で10年になりますが、高校
卒業以後に限っても、これまでに7つの自治体に住民票を置いてきました。同じ場所に10
年も住むなど、私にとっては画期的なことです。そもそも定住志向がなく、地域への愛着
も薄く、正直なところ、自治体にとくに期待もしていませんでした。2002年8月、「住民
票コード通知のご案内」がわが家にも届き、とっさに不快感を覚えました。家族の会話で、
西東京市はなぜ住基ネットから離脱しないんだろうとの疑問が出ましたが、この話題はそ
れ以上盛り上がることなく、放置されてきました。

 ところが今年になって、いくつかの要因から私の目はにわかに、自分の住んでいる地域
に向くようになり、改めて住基ネットについて考えるようになりました。私はフリーラン
スで翻訳の仕事をしています。仕事場は自宅です。もとより管理されることを嫌う人間で
すが、今後どこへ引っ越そうと生涯ついて回る11桁の番号は、管理の手段以外の何物でも
なさそうです。11桁というのは、位でいうと百億の単位です。覚える気にもなれない数字
の羅列を市民に割り当てて、市は何に使おうというのでしょうか。数字の便利さにIT技術
の進歩が相まって、今の時点では想像もつかない使われ方をする危険すらあります。どう
いう管理のされ方が待っているのか、計り知れないところに不安を覚えます。それはどう
考えても、私を人間らしく扱ってくれるシステムとは思えないからです。

 私は今月半ばまで3年近く、あるNPOの会員管理と会計を担当していました。会員数
90人に満たない小さなNPOですが、当然ながら会員情報の扱いには気を遣ってきました。
団体の規模にかかわらず、情報を入力するのは人間です。どんなに細心の注意を払おうと
ミスは必ず起きます。またNPO会員管理ソフトを使うと、入力項目を工夫することでさま
ざまな検索が可能となります。必要な時に必要な情報が取り出せるのです。これは使う側
にとっては、事務処理上たいへん便利なものです。しかしそれは、会員がいつでも個人情
報の収集や利用方法をみんなで話し合って修正したり中止したりできるという柔軟性と、
団体と意見が合わなければ会員を辞めることもできるという選択肢と、あまりひどい団体
なら潰れるという現実があるから許されるのではないでしょうか。

 私の経験はささやかなものですが、西東京市は市民18万人の個人情報を預かっています。
預かり物ですから粗末に扱うことは許されないはずです。「基礎的な地方公共団体」として、
市は事務を効率的に処理する必要があり、IT技術も活用すべきと思います。しかし、シス
テムには適正規模があるのではないでしょうか。最近、吉田柳太郎・西邑亨著『地域住民
と自治体のための住基ネット・セキュリティ入門』という本を読みました。この本は、自
治体職員が読めば役に立つアドバイスが詰まっていますが、市民の側から読めば、セキュ
リティレベルに100%はない、情報漏洩は必ず起きるということのようです。一市の範囲な
らまだしも、住基ネットを外部に接続したことで、市はそのような危ない状況に日々、市
民をさらしています。地方自治法によれば、「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図るこ
とを基本と」するとあります。現在の住基ネットの運用が「住民の福祉の増進」にかなう
ものなのか、西東京市の市長と職員はどれほど真剣に考えているのでしょうか。

 西東京市には、この先も長く住み続けたいと思えるような自治体であってほしい、そう
願うからこそ、住基ネットはぜひ見直していただきたいと思います。また裁判長には、本
当に住民のための住基ネットであるのか適正な判断をお願いし、私の意見陳述とさせてい
ただきます。