平成16年(行ウ)第217号、第250号、第251号 原 告 ○○、○○、○○ 被 告 西東京市長 保谷高範 原告弁護団意見書 2004年(平成16)9月21日 東京地方裁判所民事第38部 御 中 原告ら訴訟代理人 弁護士 清 水 勉 外6名 住基ネット・住民票コード不定取消請求訴訟の第1回口頭弁論に際して、原告弁護団とし て以下のとおり意見陳述する。 1 「わからなくても従え」から「わからないなら説明する」へ 一昨年8月5日から住基ネットの第一次稼動が開始し、全国の市町村が地域内住民に対し て住民ひとりひとりの住民票コードを記した葉書を世帯単位で作成し、世帯ごとに郵送した。 これに対して、一方的に番号を送りつけられた国民の怒りや拒否反応は強く、「私に番号を つけないでほしい」という思いを込めて、全国各地でこの葉書を役所に返す住民が続出した。 それは組織的な運動ではなく、組織されていないひとりひとりの人が考えての行動選択だっ た。この現象は役所にとって驚きだった。それまで戦前戦後を通して役所のやることはどん なことでも逆らわなかった。これが日本人社会の常識であった。住民票コードを記した葉書 を役所に突き返すという行動は、これまでの日本人社会にはなかったひとりの人としての政 治的意思表明だった。 「わからない者は役所のやることに黙って従っていればいい」。従来の役所はそう考え、住 民もそう思ってきた。住基ネットについてはほとんどの国民がその実態も問題点も知らない。 従来の延長で考えれば、従うのは当然である。しかし、今回は違っていた。「住基ネットのこ とはわからないが、一方的に番号をつけられたことが不愉快だ。私には住民票コードをつけ ないでくれ」と、堂々と言う人々が全国各地に現れた。わからないが、従えない。そういう 住民に市町村はどう対応すべきなのか。 「わからないなら従え」の時代は終わった。「わからないなら説明する」。それが行政が説 明責任を果たすべき今日という時代である。住民は難しい理屈を求めているのではない。わ かりやすいだれもが納得できる説明を求めているのだ。難しい内容なら、それをわかりやす く説明して住民の納得を得ておこなうのが民主主義政治である。 2 異議申立と審査請求 原告らは西東京市の市長に住民票コードをつけられたことが納得できなかった。それで被 告市長に異議申立をして棄却され、東京都知事に審査請求をして棄却された。結論が納得で きないこともさることながら、結論を導いた理由にいくつもの疑問を感じて反論しても、被 告市長はほとんど答えてくれず、東京都知事もそれを追認しただけだった。審査請求手続は 原告ら住民にとって納得を得るための手続きになり得ていなかった。原告らが提訴を決めた のはまさにこの点の問題があったからである。 3 原告代理人からの提案 この裁判を進めるに当たって原告訴訟代理人から2つの提案がある。 (1) 行政処分性について 1つは、住民票コードをつけることの行政処分性を前提として口頭弁論手続を進めること である。 この点が法律解釈の問題であり、最終的な判断権限が裁判所にあることは十分に承知して いる。処分性を認めることについて他の問題へ波及することを配慮する必要があることも承 知している。しかし、それにしても本件に関しては、そもそも総務省が一昨年8月に住民票 コードを付けることの行政処分性を表明しており、本件の経過における原告らも被告も東京 都知事もこれを当然の前提として手続を進めてきた。かつ、本件訴訟手続における被告の答 弁書も「請求の趣旨」において「原告の請求を棄却する」ことを求めており、「却下」を求め ていない。関係者はみな、違法性について論じようとしている。裁判所には是非、当事者の 意向を十分に配慮していただきたい。 (2) 指定代理人について もう1つは、被告の指定代理人には西東京市の職員がなることである。 住基ネットは市町村の責任において管理する自治事務である。法律を解釈運用する責任も 市町村にある。住民に住民票コードを付けたのは市町村長である。そうであるならば、住民 票コードをつけられたことへの怒りを感じている原告ら住民に対する説明責任を負っている のは、だれよりも被告市長である。 一昨年8月前後、片山虎之助総務大臣は、「住基ネットは全国の市町村が望んでつくった制 度だ」と繰り返し発言していた。昨年8月5日の長野県本人確認情報保護審議会委員との公 開討論会でも総務省市町村課長は同様の発言をしていた。これが事実なら、自分が望んだ制 度を実現させた被告市長が住民に対して説明責任を負うべきは当然である。 したがって、この裁判において被告市長は自ら答弁書や準備書面を作成し、法廷の訴訟活 動もおこなうべきである。仮にこれが被告市長の多忙さからできないというのであれば、せ めて被告市長と日々、意見交換のできる西東京市の職員が指定代理人となって本件訴訟に臨 むべきである。 原告らが求めているのは、住民ひとりひとりの思いなど考えていない、国=総務省の全国 一律の無味乾燥な理屈ではない。自治事務として住基ネットを管理運用する被告市長の本当 の考えである。被告市長が真に原告ら住民の主張に耳を傾け、原告らの主張に共感するので あれば、原告らの住民票コードの利用を直ちにやめるべきである。原告らの主張を十分に聞 いても住民票コードをつけ続けることが正しいと結論づけるのであれば、原告らは自分たち がそういう市長を選んでしまったことを自戒し、裁判所の判断に期待すればよい。 この裁判は西東京市の住民と西東京市長との法的な対話である。 どうしても西東京市の職員以外を指定代理人にするということであるならば、その主張内 容は決して国=総務省や地方自治情報センターの受け売りではなく、西東京市長の本当の考 えであるべきである。 以上