14総法審審第543号 決       定              申 立 人    柳田由紀子外494名                      (別紙1ないし3申立人                     録1ないし3記載のとおり)              上 記 総 代     柳 田 由 紀 子                同       若  林  京  子                同       神 島 由 紀 子              処 分 庁     西 東 京 市 長  申立人らが平成15年3月24日に提起した住民票コードの記載等に 係る各執行停止の申立てについて、次のとおり決定する。             主       文       本件各執行停止の申立てをいずれも却下する。             理       由 第1 申立ての趣旨及び理由  1 申立ての趣旨    本件各執行停止の申立ての趣旨は、処分庁が、平成14年8月5   日付けで、住民基本台帳法の一部を改正する法律(平成11年8月   18日法律第133号。以下「改正法」という。)附則3条に基づ   き申立人らに係る各住民票に、住民基本台帳法(平成11年8月1   8日法律第133号による改正後のもの。以下「法」という。)7   条13号に規定する住民票コードを記載(以下「本件記載」とい   う。)し、かつ、平成14年8月5日付けで東京都知事(以下「都   知事」という。)に対して、法30条の5に基づき、同条に規定す   る本人確認情報(以下「本人確認情報」という。)を通知(以下   「本件通知」といい、本件記載と合わせて「本件記載等」とい   う。)したとして、それぞれその執行を停止すること(以下「本件   各執行停止」という。)を求めるというものである。  2 申立ての理由    本件各申立ての理由は、要するに、次のとおりであり、申立人ら   は、住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」とい   う。)に係る本件記載等は、次のとおり違法又は不当であって、こ   れによって情報が一度漏えいすると現状復帰が困難な損害が発生す   るので、本件記載等に係る審査請求の裁決がなされるまでの間、こ   れらについての執行停止を申し立てると主張しているいうものと解   される。   (1) 住基ネットは、国家が国民を一元的に管理を図るシステムであ    るから、住基ネットに係る本件記載等は、憲法前文が保障する平    和的生存権を侵害する。     また、本件記載等は、申立人らそれぞれの同意なくなされたも    ので、同人らの憲法で保障された人格権、基本的人権、プライバ    シーの権利、自己情報のコントロール権、個人の尊厳及び幸福迫    求権を侵害する。     また、住基ネット上の個人情報は、その保護体制が不十分で漏    えいのおそれがあるにもかかわらず、住民票コードを住民票に記    載して本人確認情報を住基ネット上に提供することになる本件記    載等を行うことは、法36条の2第1項の安全確保義務に反する。     さらに、住基ネット上の本人確認情報は、安全に守られない状    況にあるにもかかわらず、処分庁が、本人確認情報を住基ネット    上に提供することになる本件記載等を行ったことは、西東京市個    人情報保護条例の定める規定に反する。   (2) 改正法附則1条2項は、「この法律の施行に当たっては、政府    は、個人情報の保護に万全を期するため、速やかに、所要の措置    を講ずるものとする。」と定めているにもかかわらず、個人のプ    ライバシー保護の法律も成立せず、個人情報の保護に万全を期し    たという状態でない中でなされた本件記載等は、改正法附則1条    2項に反する。 第2 当庁の認定事実及び判断  1 認定事実   (1) 平成14年8月5日当時、別紙1申立人目録1(以下「目録    1」という。)記載の各申立人(以下「目録1の申立人」とい    う。)は、西東京市の住民基本台帳に記録されていなかったが、    申立人らのうち目録1の申立人を除く者は、西東京市の住民基本    台帳に記録されていた。   (2) 処分庁は、平成14年8月5目、都知事が法30条の10第1    項1号の規定に基づき住民票コードの指定及びその通知について    委任した指定情報処理機関(総務大臣が、平成11年11月1日    付けで法30条の10第1項の規定に基づき指定した機関)から    指定された、処分庁が住民票に記載することのできる住民票コー    ドのうちから、改正法附則3条の定めるところにより、他の者に    係る住民票に記載した住民票コードと異なる住民票コードを選択    し、申立人らのうち、目録1の申立人を除く者に係る住民票にそ    れぞれ記載(本件記載)した。   (3) 処分庁は、平成14年8月5日、法30条の5に基づき、中立    人らのうち目録1の申立人を除く者に係る本件確認情報を、都知    事に対して、それぞれ通知(本件通知)し、これらの者について、    改正怯附則5条に基づき、住民票コード及び同コードを住民票に    記載した旨を記載した書面(以下「本件住民票コード通知書」と    いう。)を、同人らに対して、通常の取扱いによる郵便でそれぞ    れ送付した。   (4) 申立人らのうち、別紙3申立人目録3記載の各申立人(以下    「本件申立人ら」という。)並びに目録1の62番及び246番    の各申立人は、平成14年9月17日ないし同年10月4日に、    処分庁に対して、本件記載等に係る異議申立て(以下「本件異議    申立て」という。また、本件異議申立て提起者を「本件異議申立    人」という。)をしたが、目録1の63番及び64番の各申立人    並びに別紙2申立人目録2(以下「目録2」という。)記載の各    申立人(以下「目録2の申立人」という。)は、処分庁に対して    本件記載等に係る異議申立てを行わなかった。   (5) 処分庁は、本件異議申立てについて、平成15年2月17日付    けで、本件異議申立人に対して決定言を送付した。   (6) 申立人らは、平成15年3月24日、当庁に対して、本件記載    等に係る審査請求を行うとともに、本件各執行停止の申立てを行    った。  2 当庁の判断   (1) 行政不服審査法34条4項は、執行停止について、「審査請求    人の申立てがあった場合において、処分、処分の執行又は手続の    続行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があ    ると認めるときは、審査庁は、執行停止をしなければならない。    ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、処    分の執行若しくは手続の続行ができなくなるおそれがあるとき、    又は本案について理由がないとみえるときは、この限りでな    い。」と定めている。     ところで、この執行停止制度は、本案である審査請求に係る審    査請求人の権利を保全することを目的とするものであるから、行    政処分の執行停止の申立ては、適法な本案の審査請求が提起され    ていることが前提である。     そこで、本件各執行停止の申立てについて、まず、それぞれの    申立ての前提として、適法な審査請求が提起されているかを検討    し、適法な審査請求が提起されている場合には、当該申立てが、    行政不服審査法34条4項で定める要件を充たしているか否かを    検討する。   (2) 目録1の申立人及び目録2の申立人の執行停止を求める申立て    について    ア 目録1の申立人の執行停止を求める申立て     (ア) 目録1の申立人は、前記認定事実(1)ないし(3)記載のとお      り、平成14年8月5日当時、西東京市の住民基本台帳に記      録されていなかった者である。       したがって、処分庁が、同日当時、同人らについて、本件      記載等を行った事実はない。       そうすると、目録1の申立人は、本件記載等がなされてい      ないのであるから、本件記載等について不服を申し立てる適      格を有していないといわなければならない。     (イ) したがって、目録1の申立人が提起した審査請求は、不服      を申し立てる適格を有しない者によってなされたものであり      不適法なものであるから、同人らの執行停止を求める申立て      は、適法な本案たる審査請求を欠く不適法な申立てであり、      却下を免れない。    イ 目録2の申立人の執行停止を求める申立てについて     (ア) 行政不服審査法14条1項は、処分についての審査請求は、      処分があったことを知った日の翌日から起算して60日以内      にしなければならないと規定し、また、同項ただし書は、天      災その他審査請求をしなかったことについてやむを得ない理      由があるときは、この限りでないと規定している。       この「処分があったことを知った日」とは、処分が文書      (以下「処分書」という。)でなされる場合においては、特      段の事情がない限り、当該処分書が相手側に到達した日をい      うものとされ、また、処分書が郵送されたときは、特段の事      情がない限り、当該処分書の配達を受けた日に処分があった      ことを知ったものと解される(最高裁判所昭和27年4月2      5日判決参照)。       また、「天災その他審査請求をしなかったことについてや      むを得ない理由」とは、審査請求人が審査の請求をするにつ      き通常用いられると期待される注意をもってしても避けるこ      とのできない客観的な理由を意味するものと解され、処分庁      が教示をしなかったために審査請求期間を徒過したとしても、      これをもってやむをえない理由にはならないとされている      (東京地方裁判所昭和45年5月27日判決参照)。     (イ) 目録2の申立人は、前記認定事実(3)記載のとおり、平成      14年8月5日に、処分庁から、本件住民票コード通知書を      通常の取扱いによる郵便によって送付された者であるが、前      記認定事実(4)及び(6)記載のとおり、処分庁に対して異議申      立てを行うことなく、平成15年3月24日に、当庁に対し      て、本件執行停止の申立てに係る審査請求を提起しているこ      とが認められる。     (ウ) したがって、目録2の申立人の審査請求は、行政不服審査      法14条1項に規定する審査請求期間を経過した後になされ      たものであり不適法なものであるから、同人らの執行停止を      求める申立ては、適法な本案たる審査請求を欠く不適法な申      立てであり、却下を免れない。   (3) 本件申立人らの執行停止を求める申立てについて    ア 本件申立人らの本件通知に係る執行停止を求める申立て     (ア) 行政不服審査法1条は、行政庁の違法又は不当な処分その      他公権力の行使に当たる行為(以下「行政庁の処分」とい      う。)に間し、不服申立てをすることができると定めている。       そして、ここにいう行政庁の処分とは、行政庁が、法令に      基づき優越的立場において、国民に対し権利を設定し、義務      を課し、その他具体的に法律上の効果を発生させる行為をい      うものであると解されている。     (イ) ところで、本件通知は、処分庁が知事に対して行った行政      機関相互間の行為であるにすぎないので、国民に対して具体      的に権利を発生させ、義務を負わせるような法律上の効果を      発生させる行為であるということはできない。       そうすると、本件通知は、行政庁の処分には該当しないも      のである。     (ウ) したがって、本件申立人らの本件通知の取消しを求める審      査請求は、不服申立ての対象とならない事項についてなされ      たものであり、不適法なものである。       よって、本件申立人らの本件通知の執行停止を求める申立      ては、不適法な申立てであり、却下を免れない。    イ 本件申立人らの本件記載に係る執行停止を求める申立て     (ア) 改正法附則3条は、「市町村長は、施行日に、この法律の      施行の際現に住民基本台帳に記録されている者に係る住民票      に新法第30条の7第1項の規定により都道府県知事から指      定された新法7条13号に規定する住民票コードのうちから      選択するいずれか一の住民票コードを記載するものとする。      この場合においては、市町村長は、当該記載に係る者以外の      者に係る住民票に記載した住民票コードと異なる住民票コー      ドを選択して記載するものとする。」と規定している。       そして、法30条の10第1項1号は、法30条の7第1      項の規定による住民票コードの指定及びその通知については、      都道府県知事は、総務大臣の指定する者(指定情報処理機      関)に行わせることができると規定している。       また、改正法附則1条1項本文は、「改正法は、公布の日      から起算して3年を超えない範囲内において、政令で定める      日から施行する。」と定めており、住民基本台帳法の一部を      改正する法律の施行期日を定める政令(平成13年12月2      8日政令第430号。以下「本政令」という。)は、改正法      の施行期日について、平成14年8月5日と定めている。     (イ) そこで、これを本件についてみると、前記認定事実(1)及      び(2)記載のとおり、本件申立人らが、平成14年8月5日、      西東京市の住民基本台帳に記録されている者であったことか      ら、同日、法30条の10第1項の規定により都知事から委      任を受けた指定情報処理機関から指定された、処分庁が住民      票に記載することのできる住民票コードのうちから、改正法      附則3条の定めるところにより、他の者に係る住民票に記載      された住民票コードと異なる住民票コードが選択され、同人      らに係る住民票に記載されることにより同人らに係る本件記      載が行われたことが認められる。       したがって、本件申立人らに係る本件記載は、法令の定め      るところにより適正になされたものであり、違法又は不当な      点はない。     (ウ) ところで、本件申立人らは、要するに、住基ネット上の個      人情報のプライバシー保護及びセキュリティ対策は不十分で      あること等を理由として、住基ネットに係る本件記載は、憲      法前文及び開法で保障された各種権利等、法36条の2第1      項並びに西東京市個人情報保護条例に違反する旨主張する。       ところで、本件記載は、前記(ア)及び(イ)で述べたとおり、      法令の定めるところによりなされたものであるので、本件申      立入らの本件記載が憲法に違反するとの主張は、処分庁が本      件記載を行うに当たって根拠とした当該法令が憲法の同規定      に反するということになる。       そうとすると、この点についての判断は、法規範が憲法に      適合するか否かを判断することとなるが、法律は、国会によ      って合憲と判断のうえで制定されたものでそれ自身合憲性の      推定をうけること及び国会は国権の最高機関とされているこ      とから(憲法41条)、行政機関は合憲とする国会の判断に      従わねばならないとされている(水戸地方裁判所昭和38年      5月25日判決参照)。       したがって、行政機関である当庁は、本件申立人らのこの      点の主張について判断する権限を有しない。       また、請求人らの本件記載が法36条の2第1項に反する      との主張は、法の定める各規定の間には、優劣はないのであ      るから、前記認定事実(2)記載のとおり、本件記載は改正法      附則3条の定めるところにより行われたものであるので、本      件記載が法の定める各規定に反するとはいえない。       そして、上記(イ)で述べたとおり、本件記載は、法令の定      めるところにより適正になされたものであるから、西東京市      個人情報保護条例に反するという同人らの主張にも理由がな      い。       そうすると、本件申立人らのこれらの主張は、いずれも本      件記載の取消しを求める理由としては失当である。       したがって、これらの点に関する本件申立人らの主張には、      理由がない。       なお、法は、本人確認情報の安全確保のための措置を定め      るとともに、本人確認情報の電子計算機処理等に関する事務      に従事する者に対して、秘密保持のための厳しい義務と違反      した場合の重い罰則を定め、さらに住民票コードについて告      知要求制限や利用制限を定めるなど、十分な個人情報保護措      置が講じられていると考えられる。     (エ) また、本件申立人らは、処分庁が同人らに係る本件記載を      行ったことは、改正法附則1条2項に反する旨主張する。       しかし、本件申立人らに係る本件記載は、処分庁が、前記     (ア) で述べたとおり、改正法附則1条1項本文にいう本政令      の定める施行期日に開法附則3条の規定に基づいて行ったも      のである。       そうすると、本件申立人らの処分庁が同人らに係る本件記      載を行ったことが改正法附則1条2項に反するとの主張は、      結局、法の定める規定間の優劣を問うものであると解される      が、法の定める各規定の間には、優劣はないと考えられる。       したがって、この点に関する本件申立人らの主張は理由が      ない。       なお、個人情報の保護に関する法律は、平成15年5月3      0日に公布されている。     (オ) 以上述べたところから明らかなように、本件申立人らの本      件記載に係る執行停止を求める申立ては、行政不服審査法3      4条4項ただし書にいう本案について理由がないとみえると      きに該当するから、その余について判断するまでもなく、理      由がない。  3 以上述べたとおりであるので、本件各執行停止の申立てのうち、   目録1の申立人及び目録2の申立人の申立て並びに本件申立人らに   係る本件通知についての申立ては、不適法なものであり、その余の   申立ては、理由がないものであるから、行政不服審査法34条6項   の規定により、それぞれ主文のとおり決定する。   平成16年2月26日       審査庁  東京都知事  石 原 慎 太 郎