平成16年(行ウ)第217,250,251号
原告 ○○○○外2名
被告 西東京市長

                   準備書面(2)

                         2005年(平成17年)2月9日

東京地方裁判所民事第38部合議A1係御中
                         原告ら訴訟代理人 弁護士 清水 勉
                             同     弁護士 増田 利昭
                             同     弁護士 関口 正人
                             同     弁護士 鈴木 雅人
                             同     弁護士 結城 大輔
                             同     弁護士 冨田 千鶴
                             同     弁護士 佐渡島 啓

第1 原告らの主張
1 住民票コードについて
(1) はじめに
 原告らが、住民票コードは国民ひとりひとりにつける11桁の番号であると主張
した(訴状4頁)ところ、被告側から、「住民票コードは住民票に記載されるもの
であって人に対して番号を付するものではない。」という反論(被告準備書面(1)6
頁)が出、原告被告の議論が噛み合わなくなっている面がある。この点を共通認識にして
おかないと、今後、原告被告がそれぞれの主張を展開して行く上で議論が混乱するおそ
れがある。そこで、以下において改めて住民票コードについて説明する。

(2) 本人確認情報
 確かに,市町村長は,個人を単位とする住民票を作成しなければならず(法第6条1項),
住民票に記載する事項のうちの1つが「住民票コード(番号,記号その他の符号であって総
務省令で定めるものをいう。)」(法7条1項13号)である。この限りにおいては,被告の指摘
は,形式的には間違いとはいえない。
 しかし,原告らの主張も,当然,住民票コードが住民票に記載される一事項であることを
承知の上で行ったものであり,何も牛の烙印のように,住民ひとりひとりの人間の肉体に刻
印するものだなどと主張しているわけではないし,そのことは訴状の記載を普通に読めば
明らかでもある。上記の被告の指摘は,単に言葉尻だけを捉えたものであり,余り生産的な
議論とはいえない。
 本人確認情報とは,住民票に記載されている法第7条1号ないし3号まで(氏名,生年月
日,性別),7号(住所),13号(住民票コード)に掲げる事項(住民票の消除を行った場合
には,当該住民票に記載されていたこれらの事項)を指すと規定されている(法30条の5・
1項)が、実際にはこれに上記5 情報の変更履歴が含まれる。

(3) 住民票コード
原告らは,本人確認情報のうち住民票コードを特に問題としているわけであるが,住民
票コードが他の情報と異なる点は,他者と同一コードにならないよう割り振られているため、
同一のコード番号を振られる者はいないということである(法30条の7・2項,30条の2・2
項)。したがって,行政機関にとって,住民票コードは他の情報に比べて,個人識別の手段
として遙かに簡単で確実な方法である。このような住民票コードによって確実に特定の個々
人の情報を把握することを通じて,個々人を把握するという関係が成立する。そのため,住
民票コードは「検索キー」として極めて便利なものだと言える。

(4) 行政事務に無限に利用できる住民票コード
住民基本台帳法では,このような特性を持った住民票コードを含む本人確認情報を国
や地方自治体の行政事務などに広く活用できように配慮し,市町村,都道府県は,自らの
事務処理のために本人確認情報を利用したければ条例で定めればよく(法30条の6,30
条の7・5項参照),国の行政機関等は法律で定めればよい(法30条の7・3項参照),とし
ている。これにより,どのような行政事務においても条例または法律さえ制定すれば,住民
票コードを含む本人確認情報を使うことができるものなのである。
行政機関は多方面にわたる膨大な個人情報を保有している。
従来は,それぞれの行政機関が各自の都合で個人データに個人を識別するための整
理番号を付けていたが,住民票コードは,条例や法律によりさえすれば,どのような行政事
務における個人データの識別にも使えるという法制度になっているので,本人確認情報に
よって個人データを識別管理する行政事務範囲が広がれば,同じ人のデータを多分野に
わたって容易に検索できるようになる。特定の個人データを容易に検索できるということは,
その人を管理しやすくなると言うことに他ならない。

(5) まとめ
以上のように,原告らが言わんとしていることは,住民票コードが住民票に記載されてい
るか,人に直接刻印されているかなどという記載場所の問題なのではなく,住民票コードの
本質(個人と1対1対応であること)と機能(個人を容易かつ迅速に検索できる,すなわち管
理できる)についてである。
被告は住民にとって最も身近な行政機関として,国や東京都以上に、住民の個々人の
権利利益の保護を真剣に考えて行政実務を運用すべきであり(地方自治法1条の2、2条
14 項前段)、自治事務である住基ネットについてはこのことが当てはまる。

2.住民票コードの特異性
(1) 一定期間の保存
被告は,住民票コードの特異性について7頁で説明し、その中で、住民票コードの変更
ができることに続けて、「住民票コードを変更した場合に変更前の住民票コードが一定期間
に限って保存されること」(7頁4〜5行目)と指摘している。
これは住基法30条の5第3項で規定している「都道府県知事」の保存期間のことを指し
ていると思われる。被告は市であるからこの規定の適用はない。

(2) 保存期間と個人データの連続性
被告は,住民票コードの保存期間が定められていることから,住民票コードは永久に使
用されるわけではないという主張をしているつもりなのかもしれないが、保存はむしろ連続
性を意図したものである。なぜなら、新たな住民票コードで個人データを管理するようにな
れば、新たな個人データとの関係では古い住民票コードは必要なくなっているはずであり、
それを一定期間保存するということは新旧の個人データを結びつけるためでしかないから
である。
 住民票コードおよびその変更履歴は,市町村から都道府県を経由して指定情報機関
(地方自治情報センター)へと通知されるものである(法30条の5・1項,30条の11・1項)。
確かに,指定情報処理機関(財団法人地方自治情報センター)においても,住民票の記
載,修正が行われた場合には,記載・修正前の本人確認情報について,通知の日から5年
間の保存期間等が定められている(住民基本台帳法施行令第30条の11)。しかし,新た
に記載・修正された本人確認情報に住民票コード及びその変更履歴が記載されている以
上,それより古い本人確認情報が保存期間経過によって廃棄されたとしても,最新の住民
票コードおよび変更履歴として,住民票コードが,いわば”数珠つなぎ”に蓄積されていくだ
けである。そして,原告らが問題としているのも,まさにこの点(すなわち住民票コードの数
字自体は,他市町村での新規の記載や変更,修正等によってどんなに変わろうとも,全て
が”数珠つなぎ”のように連続していくこと)なのである。

第2 求釈明
1 処分性に関する認否
被 告は,準備書面(1)「第3 請求の原因に対する認否」「5」(8頁〜)におい
て,訴状「第2 請求の原因」「5 住民票コード付定の処分性」(5頁〜)にお
ける原告らの主張のうち、下記網掛け部分について認否していない。
 これについて被告は,「その余については事実に関する主張でないから認否の限
りでない」とするが、これらは,住民票コードと従来から行政機関のみならず誰も
が任意に使用している整理番号との差異,住民票コードの特質について説明したも
ので,評価などではなく,まさに事実そのものである。また,本件訴訟において,
原告らが住民票コードを問題視する核心的事実である。被告の処分の違法性と深く
かかわる部分でもあるから,被告がこれら事実についてどのような認識をもってい
るのかを踏まえたうえで,原告らは今後の主張を展開する必要がある。
 被告は,下記網掛け部分(下線部分)のうち事実ないし事実認識に関する部分に
ついてすみやかに認否すべきである。
                 記
(2) 処分性の意味
 しかし、市町村長が区域内の住民(日本国籍を有する者)に対して付番(住民票
コードの付定)することがどうして行政処分に当たるのかということについては、
違法性に深く関わる問題であるので、説明する。
 住民票コードは国民ひとりひとりに割り振られた11 桁の番号であり、異なる人に
同じ番号が割り振られることのない仕組みにしてある(住基法第30 条の7第1項・
第2項、第30条の10第1項第1号・第2号、第30条の2第1項・第2項)。住
民票コードは11桁の番号である。単なる整理番号のように見えるが、そうではない。
 整理番号は特定の業務の都合でそのかぎりにおいてつける番号であるから、業務
ごとに付番する都合上、業務ごとに番号が違っている。業務形態が変われば、ある
番号は抹消されるかもしれないし、他の番号に変えられるかもしれない。ひとつの
市町村の業務の中でさえ、番号は統一されていない。まして、他の市町村に引っ越
せば、その市町村の業務において独自の整理番号をつけるので、引越し前の市町村
の整理番号を引き継ぐことはない。このような一過性で業務別であることが、本人
の意思を確認することなく、行政内部の都合で使用されることが許される理由であ
る。
 これに対して、住民票コードは同一人についてはどのような行政事務でも同じ番
号で処理するというものなので、業務形態が変わろうが、本人が他の市町村へ引越
しをしようが、変わらない。人の生涯に付いて回る番号である。住民票コードを変
更する手続はあり、いつでも何回でも変更できる(30条の5)が、旧住民票コード
は変更履歴として残る仕組みになっているので、個人データを管理する側にとって
は、住民票コードの変更は個人データの連続性が切れる原因にはならない。つまり、
個人データ管理の問題としては住民票コードを変更しても人の同一性はずっと把握
し続けるということである。
 突き詰めてゆくと、国民ひとりひとりを特定するのに、氏名・性別・生年月日・
住所は必要ない。住民票コードだけで足りる。個人データをコンピュータ管理し、
行政機関同士が便利に利用し合うには個人の識別を間違わないことが決定的に重要
であり、この点からは同じ番号が複数ない仕組みになっている住民票コードだけで
処理することが最も確実であり、かつ極めて便利なのである。
 住基法は、国や地方自治体の行政事務において広く住民票コードを使用すること
を禁止していない。法律や条例を設けさえすれば、どのような行政事務にも住民票
コードを使用することができる。
 しかし、人権尊重を憲法の基本原理とする社会にあっては、便利さはすべてに優
先する価値ではない。氏名(の変更を含め)・性別(の変更を含め)・生年月日は
個人のアイデンティティ=個人の尊重(憲法第13条)にとって切っても切れない重
要な要素である。それが住基ネットの住民票コードに取って代わられる可能性があ
る。これは一過性の単なる整理番号の域を遥かに越えた問題である。
 このような重要な意味を持つ、住民票コードの付定は、行政処分に当たると解す
べきである。

2 変更履歴の保存
 @ 被告西東京市では,本人確認情報及びその変更履歴をどのように(どのよう
  な記録媒体に置いて)保存し,管理し,いつ,誰が,どのように消去するのか。
 A その法的根拠は何か。