平成16年(行ウ)第217号,第250号,第251号
住民票コード付定取消請求事件
原 告 ○○○○ほか2名
被 告 西東京市長

             準 備 書 面 (1)

                            平成16年12月7日

 東京地方裁判所民事第38部合A1係 御中

                 被告指定代理人
                             榮   岳 夫
                             池 原 桃 子
                             板 山   久
                             安 村 和 美
                             大 川   強
                             管 野 照 光
                             佐 藤   豊
                             内 田   誠
                             加 地 敏 朗
                             岡 村 保 彦

第1 本案前の答弁
 1 本件各訴えをいずれも却下する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第2 本案前の答弁の理由
   本件各訴えは,抗告訴訟(行政事件訴訟法3条1項)として提起されたもの
  と思われるが,以下に述ぺるとおり,原告らが取消しを求める被告の行為は,
  処分性を欠くものであるから,本件各訴えは不適法である。
 1 本件の事実関係
  (1)被告は,住民基本台帳法の一部を改正する法律(平成11年法律第133
   号。以下「改正法」という。)の附則1条1項本文にいう政令の定める施行
   の日である平成14年8月5日に,同法附則3条の規定に基づき,西東京市
   の住民基本台帳に記録されている者に係る住民票に,東京都知事から改正法
   による改正後の住民基本台帳法(以下「住基法」という。)30条の10第
   1項1号の規定に基づき委任を受けた指定情報処理機関(同項に定める総務
   大臣が指定する者。以下同じ。)から指定された住民票コード(同法7条1
   3号,30条の7第1項)のうちから選択した住民票コードを記載した。
     被告は,同日,改正法附則5条の規定に基づき,西東京市の住民基本台帳
   に記録されている者に対し,郵送の方法によって,各住民の住民票コードを
   書面によって通知した。
  (2)また,これに先立ち,被告は,改正法附則7条の規定に基づき,本人確認
   情報の処理及び利用等の事務の実施に必要な準備行為として,同年5月6日,
   西東京市の住民基本台帳に記録されている者に係る住民票に,指定情報処理
   機関から指定された住民票コードのうちから選択した住民票コードを記載し
   た(以下「本件準備行為」という。)。これは,住民票コードの記載や住民
   基本台帳ネットワーク(以下「住基ネット」という。)への接続を施行日で
   ある平成14年8月5日に支障なく実施するため,その準備行為として,シ
   ステムの調整等の作業を行った上で,仮の住民票コードを選択,記載したも
   のである。
    その上で,被告は,同年8月2日までの間の出生,転入,転出,死亡等の
   事由による仮の住民票コードの記載ないし削除を行った上で(なお,同月3
   日,4日は土曜日及び日曜日であった。),同月5日,上記(1)のとおり,改
   正法附則3条に基づいて,西東京市の住民基本台帳に記録されている者に係
   る住民票に,指定情報処理機関から指定された住民票コードのうちから選択
   した住民票コードを記載した。なお,本件準備行為以降に出生,転入,転出,
   死亡等の事由による変動が生じなかった者については,本件準備行為によっ
   て記載された仮の住民票コードと同一の住民票コードが記載された。
 2 原告らが取消しを求める対象
  (1)原告らは,訴状の請求の趣旨において,被告西東京市長の行った原告らの
   「住民票コード付定」の取消しを求め,原告ら準備書面(1)において,原告
   らが取消しを求めている「住民票コ−ド付定」とは,「被告が, 2002年
   (平成14年)7月20日ころまでに,各原告の住民票コード(11桁の数
   字)を選択し,住民票に記載したことを指す」ことを明らかにした。
  (2)上記の原告らの主張,及び原告らが訴状7ページ以下において,被告の原
   告らに対する「住民票コードの付定」が改正法附則3条に違反して法律の根
   拠なく行われたものであると主張していることからすれば,原告らが本件に
   おいて取消しを求めているのは,被告が平成14年8月5日に改正法附則3
   条の規定に基づいて行った住民票コードの選択,記載行為ではなく,その準
   備行為として同法附則7条に基づいて行った本件準備行為であると解せられ
   る。
 3 本件準備行為が処分に該当しないこと
  (1)抗告訴訟の対象となる行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その
   他公権力の行使に当たる行為」とは,行政庁がその優越的な地位に基づき公
   権力の発動として行う行為であって,これにより直接国民の権利義務を形成
   し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁
   昭和30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2号217ページ,最高裁
   昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809ページ参
   照)。
  (2)この点,本件準備行為は,平成14年8月5日に住民票コードの住民票ヘ
   の記載,住基ネットヘの接続等を支障なく行うための事実上の行為にすぎず,
   それのみでは当該住民の権利義務に何らの影響を及ぼすものではない。前記
   1のとおり,本件準備行為時に西東京市に住民票を有し,その後も引き続き
   居住している者については,平成14年8月5日に,本件準備行為によって
   記載された仮の住民票コードと同一の住民票コードが住民票に記載されたも
   のであり,この行為には処分性が認められるものの,平成14年8月5日以
   前の段階では,本人確認情報(氏名,生年月日,性別,住所及び住民票コー
   ド並びにこれらの変更情報をいう。以下同じ。住基法30条の5第1項参照。)
   の国の行政機関等への提供等の住基ネット,住民票コードを利用した事務は
   一切行われていなかったのであり,住民票に仮の住民票コードが記載されて
   いたことは,当該住民の権利義務や法律上の地位に何らの影響を与えるもの
   ではなかった。
 4 小括
   したがって,本件準備行為は,行政事件訴訟法3条2項の「行政庁の処分そ
  の他公権力の行使に当たる行為」には該当しないから,本件各訴えは不適法で
  あって,速やかに却下されるぺきである。
   なお,最高裁判所昭和57年5月27日第一小法廷判決(民集36巻5号7
  77ページ)は,地方公務員としての採用内定の通知は,単に採用発令の手続
  を支障なく行うための準備手続としてされる事実上の行為にすぎないとして,
  この内定の取消しについて処分性を否定しているが,この理は,単なる準備行
  為にすぎない本件準備行為にも当てはまるというべきである。

第3 請求の原因に対する認否
 1 「1 本件訴訟の意義」について
   認否の限りでない。
 2 「2 当事者」について
  (1)「(1)原告ら」について
    原告らが平成14年6月以前から西東京市に居住していたこと,及び平成
   16年10月28日の時点で西東京市に居住し,西東京市に住民票を有して
   いることは認める。
  (2)[(2)被告」について
    認める。
 3 「3 住基ネット」について
  (1)第1段落について
    住基ネットが全国のすべての地方自治体で作るコンピュータネットワーク
   であること,住民基本台帳カード(以下「住基カード」という。)がIC力
   −ドであることは認め,原告らが主張する@ないしBの特徴を備えた制度が
   日本にしかない特殊な仕組みであることについては不知。その余は否認する。
    原告らは,住基ネットが国民一人一人に異なる11けたの番号である住民
   票コードを付けるものであると主張するが,住民票コードは住民票に記載さ
   れるものであって,人に対して番号を付すものではない。
    また,住基カードは,住民からの市町村長に対する交付申請に基づき交付
   されるものである。
  (2)第2段落について
    住基ネットが住基法に定められた制度であることは認め,その余は,住民
   票コードは人に対して番号を付すものではないから否認する。
  (3)第3段落について
    住基法上,各市町村が独自の判断で住匹ネットに接続しないことを認める
   規定が存在しないことは認める。
  (4)第4段落について
    住基カードが,住民からの市町村長に対する交付申請に基づき交付される
   ものであることは認めるが,「第33条の44第1項」とあるのは,「第3
   0条の44第1項」の誤りと思われる。
    その余は否認する。住基カードにおける個人情報保護のためのセキュリテ
   ィ対策は,制度,技術及び運用面において講じられており,西東京市におい
   ても十分な検討をしている。
  (5)第5段落について
    住基法上,市町村長は,住民票の記載消除又は氏名,生年月日,性別,
   住所及び住民票コードの全部若しくは一部について記載の修正を行った場合
   には,当該住民票の記載に係る本人確認情報を都道府県知事に通知するもの
   とされていること(同法30条の5第1項),都道府県知事は,同法別表第
   1の上欄に揚げる国の機関又は法人(以下「国の機関等」という。)から同
   表の下欄に掲げる事務の処理に関し,住民の居住関係の確認のための求めが
   あったときに限り,同法施行令で定めるところにより,保存期間に係る本人
   確認情報を提供するものとされていること(同法30条の7第3項),都道
   府県知事は,指定情報処理機関に,同法30条の7第3項の規定による本人
   確認情報の国の機関等への提供の事務を行わせることができるとされている
   こと(同法30条の10第1項3号),財団法人地方自治情報センターが指
   定情報処理機関であること,これらの仕組みが平成14年8月5日から実施
   されていることは認め,その余は不知。
  (6)第6段落について
    住基カードの交付を受けている者の転出・転入手続において,転出地市町
   村長が本人確認情報以外の事項についても転入地市町村長に通知する場合が
   あること(住基法24条の2,同法施行令24条の4),これが平成15年
   8月25日から実施されていることは認め,その余は不知。
 4 「4 事実の経過」について
  (1)第1文について
    「住基ネット法案」とあるのは「住民基本台帳法の一部を改正する法律」
   (平成11年法律第133号。改正法。)の法案と解した上で,認める。
  (2)第2文について
    被告が,改正法附則7条の規定に基づき,本人確認情報の処理及び利用等
   の事務の実施に必要な準備行為として,平成14年5月6日に西東京市の住
   民基本台帳に記録されている者に係る住民票に,指定情報処理機関から指定
   された住民票コードのうちから選択した住民票コードを記載したという限度
   で認める。
  (3)第3文について
    平成14年8月5日に,被告が,西東京市の住民に対して,住民票に住民
   票コードを記載した旨の通知を郵送にて行ったという限度で認め,その余は
   不知。
  (4)第4文ないし第7文について
    認める。
  (5)第8文について
    原告らの住民票に住民票コードが記載されているという限度で認める。
 5 「5 住民票コードの付定の処分性」について
   住民票コードが11けたの番号であること,住基法上,異なる人の住民票に
  同じ番号が記載されることがない仕組みとなっていること,住民票コードは本
  人の申請により変更することが可能であること,住民票コードを変更した場合
  に変更前の住民票コードが一定期間に限って保存されること,住民票コードを
  含む本人確認情報の提供については,法律又は条例の定めが必要であることは
  認め,その余については事実に関する主張でないから認否の限りでない。
 6 「6 処分の違法性について」について
  (1)「(1)住民基本台帳法違反」について
    争う。
    被告は,改正法附則7条の規定に基づき,本人確認情報の処理及び利用等
   の事務の実施に必要な準備行為として,仮の住民票コードを記載したもので
   ある。
  (2)「(2)人格権の侵害」について
    争う。
  (3)「(3)プライバシー侵害」について
    争う。
 7 「7 結論」について
   争う。
 8 「8 おわりに」について
   認否の限りでない。

第4 被告の主張
 1 本件準備行為の適法性
   前記第2,1,(2)のとおり,本件準備行為は,改正法附則7条の規定に基
  づき,本人確認情報の処理及び利用等の事務の実施に必要な準備行為として行
  われたものであり,適法である。
 2 原告らの主張に対する反論
  (1)住基法違反の主張について
    原告らは,被告が平成14年8月5日以前に原告らの住民票に住民票コー
   ドを記載したことについて,法律上の根拠なく行われたものであって違法で
   ある旨主張する(訴状7,8ページ)。
    しかしながら,前記のとおり,本件準備行為は,改正法附則7条の規定に
   基づいて行われたものであるから,原告らの主張は理由がない。
  (2)人格権の侵害の主張について
    原告らは,住民票コードの住民票への記載について,国民を「行政機関と
   の関係において家畜や工業製品などと同じ扱いにすることは,明らかに人格
   権(憲法13条)を侵害する」旨主張する(訴状8ページ)。
    しかし,原告らが主張する人格権は,その概念そのものが抽象的かつ不明
   確であるばかりでなく,具体的な権利内容,成立要件,法的効果等も不明で
   ある。
    また,この点をおくとしても,住民票コードは,住基ネットにおいて本人
   確認を確実かつ効率的に行うために使用される10けたの数字及び1けたの
   検査数字にすぎず,住民票コードを住民票に記載したからといって,原告ら
   が主張するように,「国民を……家畜や工業製品などと同じ扱いにする」こ
   とにはならず,何ら人格権を侵害するものではない。
    したがって,原告らの主張はいずれにしろ失当である。
  (3)プライバシー侵害の主張について
    原告らは,「住民票コードを国民ひとりひとりに付けることが個人のプラ
   イパシー侵害の危険を確実に飛躍的に高めているという意味において,住民
   票コードをつけること自体がプライバシー(憲法第13条)の侵害に当たる」
   旨主張する(訴状8ページ)。
    しかし,前述のとおり,住民票コードは人に対して番号を付するものでは
   ないから,原告らの主張は前提を欠く上,原告らの主張するプライバシーの
   具体的内容や,いかなる状態になればプライバシーが侵害されると主張する
   のかは不明であり,原告らの主張は不明確である。
    また,その点をおくとしても,行政機関における住民票コードを含む本人
   確認情報の利用については,目的外利用等の禁止(住基法30条の34)や
   告知要求の制限(同法30条の42)が定められており,その結果,指定情
   報処理機関と国の機関等との間において,住民票コードを利用していわゆる
   データマッチングを行うことはできないのである。このように,住基法は,
   住民票コードを含む本人確認情報の利用を厳しく制限しているのであるか
   ら,住民票コードを住民票に記載したことから直ちに,プライバシー侵害の
   危険性が高まるものではない。
    したがって,原告らの主張はいずれにしろ失当である。
 3 小括
   以上のとおり,原告らの請求はいずれも理由がないから,速やかに棄却され
  るべきである。