意見陳述−柳田由紀子


国家が先ではない、人間が先にあって国家がある

柳田由紀子


●住基ネットの付番は基本的人権の侵害

 本末転倒。行政が一方的に有無を言わせずに住民に番号をつけて管理の対象にするのは本末転倒ではないか、これでは行政中心の管理国家になってしまう、というのがこの住民基本台帳ネットワークシステム(以下住基ネットと言います)に対する私の率直な見方です。

 中央官庁が住基ネットにより、情報管理の一元化を図ることで、住民(国民)支配を可能にしうるという意味では、地方分権の時代に逆行するものでもあります。 私は一市民として、住基ネットの付番そのものが憲法に保障されている基本的人権を侵害するものだと考えます。

 基本的人権は、一七八九年のフランスの「人権宣言」に流れを持つ、近代憲法不可欠の権利です。「人権宣言」は、人間が生活していく上での普遍的原理を宣言したもので、ジョン・ロックに代表される近代的自然法思想が反映されているとされています。その自然法思想は、人間生活に不可欠のものとして自由・生命・財産があり、これは国家をもつ社会が形成される以前に、人間の自然状態としてもつ固有の権利であるというものです。 国家が先にあって人間があるのではない、人間が先にあって国家があるということなのです。断じて逆さまではないのです。私たちは、人間固有の権利を保障していくために、約束事として法律を定め、運営する組織・機構として行政機関をもっているのであり、それらには権利を部分的に委任しているだけです。

 日本国憲法は、こうした近代憲法思想の下に制定され、一一条で基本的人権を保障し、一二条で憲法が保障する自由と権利の保持を規定し、一三条で個人の尊重と生命・自由及び幸福追求の権利の尊重を定めています。 住基ネットは、住民を管理の対象として扱うことで個人の尊重を侵害し、さらに、これを拒否する権利を奪うことで自由をも奪うものでありますから、基本的人権を侵害する制度であり、憲法一一条、一三条に違反すると指摘せざるを得ません。

●住民票コード通知書返却への市の対応

 西東京市の対応について異議があります。

 八月中旬に、西東京市から住民票コード番号の通知がきました。私は、九月四日に、「とめよう住基ネット!西東京市民の会」の申し入れ人代表として、申し入れ人と共に申し入れ書を提出しました。申し入れの要旨は、住基ネットへの参加は個人情報やプライバシーが守られる保障がなく、情報が漏洩したら原状回復は困難であるから、

1. 市は市の保有する個人情報を本人の承諾なしに外部提供しないでほしい。
2. 本人の承諾なしに付番しないでほしい。
3. 通知書は受け取りを拒否し返却する。
4. 返却した通知書はシュレッダー処理等で処分するように。 というものでした。そして、通知書を返却しました。対応した市は、付番と住基ネット接続は住民基本台帳法により適法である旨回答したため、削除を求めましたが、既に接続したものを削除はしないと答えました。 

 また、十月二十五日付け書面で、住民基本台帳法の規定により、住民票コードを住民票に記載し、書面により通知しなければならないものであり、コード通知を返却しても住民票に記載された住民票コードを削除することはできないし、本人確認情報を都道府県知事に通知することについても、住民基本台帳法によると個人の選択性、任意性は認められていない旨通知してきました。

 同封された別紙「住民基本台帳ネットワークシステムに対する御理解と御協力のお願いについて」には、住民基本台帳ネットワークシステムは、いわゆる「国民総背番号制」とは、全く異なるものであり、地方公共団体共同のシステムとして構築されている。本人確認情報のデータ提供は限定され、個別の目的ごとに法律の根拠が必要であり、かつ、目的外の利用は禁止されている。民間部門では住民票コード告知要求はできない。罰則や利用制限規定も設けられていると説明されていました。

●西東京市の見解に対する反論

 これらの市の説明は、総務省の見解にほぼ沿った内容であり、市としての主体性が見られませんが、市の見解として示されていますので、これらに対する私の意見をここで述べさせていただきます。

 第一に、住民票に記載された住民票コードの削除が本人の意思でできないこと、また、本人確認情報の外部提供に対する個人の選択性、任意性が認められないことについては、個人情報に係る自己情報コントロール権を侵害するもので、付番そのものとともに、憲法一三条に違反すると考えます。 個人の尊重には個人のプライバシーが守られるということが含まれます。プライバシーを守るためには、自己に帰属する情報について、本人の意思に反して暴露されたり利用されたりしない権利、また、本人からの開示、訂正、削除、利用中止の権利すなわち自己情報コントロール権が保障されることが必要不可欠です。しかし住基ネットにはその権利が保障されておりません。従って違憲であると指摘せざるを得ません。

 第二に、住基ネットが「国民総背番号制」とは全く異なるものという説明には理解しがたいものがあります。生まれた時から死ぬまで、国民全てに、個人を識別する番号が付けられるのですから、これが総背番号でないと言えるのでしょうか。番号を変えても、変えた情報が付いて回るのですから、番号で検索すれば、個人が特定されてしまいます。また特定されなければ困るわけで、そのための番号であるわけですからこれは総背番号ですね。 地方公共団体共同のシステムだとも説明していますが、区市町村は都道府県に、都道府県は地方自治情報センターに情報を接続しており、この一つの機関が、全ての国民の本人確認情報を記録、保管、運用する仕組みになっている実態は、住基ネットが国民管理のシステムであることを明白にしています。 総務省は、「全国センターに保有するのは本人確認情報だけで、さまざまな個人情報を一元的に収集保管しない仕組みだから国民総背番号制ではない」と説明していますが、どういい変えようとも、国民に総て番号を付けるという仕組みは紛れもない事実であります。全国センターでは本人確認情報を扱うだけでも、それを利用したさまざまな個人情報のデータが利用者側に集積することで、プライバシーにかかわる問題が生起しうるものです。

 第三に、データ提供は限定され、個別の目的ごとに法律の根拠が必要であり、かつ、目的外の利用は禁止されている、についての問題点を指摘します。 まず、提供先が限定されているといっても、行政手続きオンライン化法案が十二月六日に成立し、行政関係の住基ネット利用業務は当初の九十三事務から二百六十四事務にも拡大されています。総務省によると、住基ネットは、行政機関への申請・届出のほぼすべてをインターネットで可能とする「電子政府・電子自治体」実現のための必要不可欠な基盤となるそうですから、国の行政機関のみならず、都道府県や区市町村における申請・届出すべてに拡大していく可能性があるとみるのが普通です。 また、本人確認情報は民間機関にも提供され、政府はこれについて「民間の住民票コード利用規制は、情報収集の自由、経済活動の自由にかかわり、行政の過度の干渉を防ぐ観点からプライバシー保護との比較考量が必要」と答弁して、民間利用の規制に消極的であることからも、民間利用を禁じていても民間利用が拡大する方向性をはらんでいることは確実であります。 行政機関にしろ民間機関にしろ、利用が拡大すればするほどそれに携わる人間は増えるわけですから情報管理が難しくなるというのは常識です。 目的外利用については法でいくら禁じても、先程から何べんも皆さんがおっしゃっているように、防衛庁事件で見られるように容易になされる可能性があるわけですね。また、三〇条の三四で本人確認情報受領者は事務処理遂行上必要な範囲で利用、提供ができるとなっているため、この場合必要な範囲は拡大解釈される可能性をはらんでおります。

 第四に、民間部門では住民票コード告知要求はできない、罰則や利用制限規定も設けられているという点については、だから安心だとは言えません。というのは、住民基本台帳法三〇条の四二で「市町村、都道府県、指定情報処理機関、別表1事務の国や法人」以外の者が住民票告知を求めることや、市町村長以外の者が業として行なう行為に関し、契約相手に住民票コードを求めること等が禁止されていますが、住民票コードを「任意に」提供することは規制されていないからです。この問題については法改正の時に、政府は「任意提供への規制は難しい」と答弁しているわけです。 また、同三〇条の四三で民間の利用制限を定め、市町村長以外の者が、業として、住民票コードが記録された情報や提供することを予定したデータベースをつくることを禁止していますが、「業として」ではなく、自社用にデータベースをつくることは禁止されていまないし、たとえ違法にデータベースが構成されても、押収・消去の義務付けはないというものです。さらに一旦流出した個人情報でも、入手先で業務としてデータベースをつくらなければ処罰されない、違反行為が反復しなければ、行為の中止勧告も出せないという規定になっております。で、中止勧告をたとえ出したとしても、もうその時は遅いわけですね。コピーはいくらでも流出してしまうので全く無意味です。 さらに、利用提供されたデータベースの結合は法的に禁じられていても、コンピュータは様々なデータを一気に集めて、検索操作により、新たなデータベースをつくることが可能なわけです。拡大解釈で個人情報が集中・集積され密かに利用される危険性が拭い切れません。 住基ネットはことほどさように、私のようなコンピュータに詳しくない一般市民レベルで考えても非常に問題があるシステムなのです。ですから、これをもって御理解と御協力をなどと言われても、もうそれはとってもできない相談というものです。

●地方自治の原理を汲み取って

 そこで西東京市はどうすべきかということについて、私なりに意見を述べさせていただきます。

 まず第一に、西東京市は、地方自治の基本原則を定めた憲法九二条「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」に示されている自治の原理を深く汲み取ってほしいと思います。

 地方自治が国のあり方にとってもどれほど大切か十分考えていただきたい。ご承知のように、天皇主権の大日本帝国憲法が戦争国家をつくってしまったことの反省から主権在民の日本国憲法が生まれました。この時、内容が書き換えられた他に、新たに章立てされて加えられた理念が、第2章戦争放棄と第八章地方自治でした。いずれも再び戦争を起こさないための歯止めであります。戦争放棄は直接的にそれを表わしたものですが、地方自治は、民主的な住民自治が確立することで国家が起こす戦争を防ぐ働きをもたせたものです。なぜなら戦前は地方自治が存在しなかったからです。知事等の首長は全部内務省から派遣され、その下に市町村が組織されていたわけです。天皇が上にたった中央集権体制において地方の行政機関はすべて国の事務を行なっていただけでした。つまり国の命令に従うだけ。こうした制度であったからこそ戦争国家が容易に形成されたのでした。

 その意味において、現憲法で地方自治が定められたことの意味は大変重要です。住民自治を保障することで、民主的な自治組織が育つことにより平和国家を実現する、そういう道を示しているからです。 ですから、住民基本台帳の事務が、国の委任事務ではなく、市町村の自治事務とされているのは重要なことです。地方自治体がその業務に責任をもつということですから。国の命令に従って行なう事務ではないということをしっかり理解してほしいのです。総務省の指示に従ってやれば事足れりということではないのです。

●住基ネット稼動は違法 

 八月五日の住基ネット稼動についても、総務省が適法だというので西東京市も適法との見解ですけれども、総務省の適法だとの主張に対しては疑義があります。

 先程も若林さんがおっしゃったように、総務省は住民基本台帳法附則一条二項の「この法律の施行に当たっては、政府は、個人情報の保護に万全を期するため、速やかに、所要の措置を講ずるものとする」との規定がありながら、政府は、個人情報保護法案を国会に上程したから所要の措置を講じたとして、同一項の「この法律は、公布の日から三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する」とあり、政令で「平成十四年八月五日」と定めたから適法だとしているものですけれども、明らかにこれは約束違反です。法案は成立しなければまったく無意味でありますし、法案の中身が個人情報を保護できるものになっていなければそれは無意味であるし、また、個人情報保護法案だけで個人情報保護が万全なのかとそういう問題もあります。所要の措置が講じられていないままの住基ネット稼動は違法だと指摘せざるを得ません。

●不参加・離脱の自治体

 こうした問題があるために、地方自治体として、住基ネットに接続しない、参加しない意思表示をしたところが出ておりまして、住民としては現在四百万人強が住基ネットに組み込まれていません。それ以外の人たちは強制的に組み込まれているわけですね。こうした自治体の対応を具体的にいくつかご紹介したいと思います。

 人口十一万一千人の国分寺市は、個人情報保護法成立まで参加を見合わせています。

 住基ネットを離脱した人口五十一万一千人の杉並区は、十月十一日に国に対して要望書を提出し、参加条件として「確固とした個人情報保護の法制化」を求めています。これは漠然と法制度の確立を求めているのではなく、杉並区として、これこれこれだけの事項を含むものとして具体的に、一つは行政機関個人情報保護法関係とあと三つは住民基本台帳法関係について細かい内容を指定して、四項目の内容として示しておるわけです。さらに、住基ネットへの参加・不参加を区民一人一人が選択できる制度の確立を一緒に要望しているんです。自治体として、住民の個人情報を保護するために、これは安全側にたって判断を下したものといえます。私の実家は杉並区にありますが、こうした杉並区の住基ネットへの対応には本当に目を見張るものがあると考えます。杉並区に戻りたいほどです。(笑い)

 選択制をとった横浜市があります。ここでは個人情報保護法成立まで、不参加の意思表示をした市民八十四万人の接続をこれは止めたわけですね。

 それから、稼動後切断したところで人口三十万九千人の中野区があります。中野区は九月十一日に、個人情報保護に関する法制が未整備であること、個人情報の取り扱い上のセキュリティに不安が残ること、個人情報保護に関する基本法が成立していない状況のもとで行なうべき、個人情報の保護への配慮にかける点があることの三点を理由に、国に対して切断の連絡を行ないました。

 それからまた、国立市のように、稼動後、今非常に悩んでいるという自治体もあります。ここでは三百人を超す住民の参加拒否や自己情報削除願いがあったことで、法的・技術的な検討を始めました。九月議会で「住基ネット再考を求める決議」が可決されたことを踏まえて市民意向調査を実施しました。その市民意向調査では六九%から不安という回答があったため、この市民の不安に的確に答えるために、十一月二十八日付けで総務省に八項目からなる質問書を送りました。この質問書は八月、十月に続く三回目のもので、総務省の十月二十五日付けの回答が非常に不十分であるということで再質問が中心でしたけれども、総務省の回答次第で重大な決定をせざるを得ないと国立市は表明しております。その回答の期限が十二月十日でありまして、これがどうなることか非常に関心を持つところであります(注=国立市はその後十二月二十七日に離脱)。

 それから逗子市では十一月十三日に、住民票コード削除とコードを記入した住民票発行と外部提供の中止を求める個人情報保護条例に基づく不服申し立てに関して、逗子市個人情報保護委員が市長に意見書を提出しました。

 そこでは 1. 実施機関に対して勧告はしないけれども意見を述べるとして 「神奈川県その他関係機関と必要な協議をして、申出人の住民基本台帳に記載された住民票コードを削除し、申出人の住民票コードの通知を中止し、通知済みの住民票コードを削除するよう努めるべきである」とし、 2. 逗子市長に対し、 「逗子市長に対し、住基ネットへの参加を継続するか離脱するかについて、何らかの手段で市民の意見を聴した上で、逗子市個人保護運営審議会の意見を聴いて、改めて方針を決めることを要望する」 こういう風に意見を述べています。逗子市としては参加不参加に慎重な検討がなされた上でその結果参加したものであるけれども、所要の措置が講じられていない現状況において、改めて市長に再考を促したものとされております。

●問い直し、修正ができる自治体であってほしい

 住基ネットに何の問題もなければ一〇〇%の自治体がこれに参加するはずです。しかし実際は、これまで例を挙げましたように、問題ありとして自治体の主体的な判断で、住基ネット不参加・一部不参加としたところがあるわけですし、今、再検討を行なっている自治体もあるわけです。これらの自治体が指摘した問題点は解決しているわけではないですから、当然、西東京市においても共有する問題として存在するものです。そこをどう考えるのか。

 市民としては、一度決めたことでも、絶えずこれでいいのかと問い直し、改める必要があれば修正する、そういう自治体であってほしいと思います。 自治体業務の電子化を進めることで機関の機能が合理的にうまく働くようにしていく、そういうことは必要であると思います。しかしあくまで、中心は個々の人間です。個々の人間が、幸福に一生を終えるようにするためにはどうしたらよいか。これを考え、制度を整え、運営していく。その時に事務の効率化が個々人の権利侵害を招いてしまっては、これはいけないでしょう。

 以上のように、私は違憲・違法の住民票への付番をやめること及び接続した個人情報を削除することを強く求めます。西東京市としては、これらを可能とする方法をぜひ、考えていただきたい。まだ、それができます。