意見陳述−柳田由紀子

2003.7.10 東京都庁第一本庁舎25階115会議室

住基ネットをここで切断する。それが最上の道だ

柳田由紀子(申立人総代)

 昨年8月5日に住基ネットが稼働してもうすぐ1年になろうとしています。私の了解なしに西東京市が一方的に私に付けた11桁の番号は今どうなっているのでしょうか。

●国によってつくられた国のためのシステム

 11桁の個人識別コード番号は、氏名・生年月日・性別・住所・変更履歴を載せた本人確認情報として東京都に送られ、東京都から地方自治情報センターに送られ、そこで一括管理されているわけです。

 この財団法人地方自治情報センターは、1970年に自治体のコンピュータ化を推進するために総務省の肝入りでつくられ、自治体が会員となって年会費を納入して運営されています。現在、会費の額は47都道府県、12政令指定都市は200万円、23特別区が40万円、601の市が人口により40万円から7万円、1061の町と176の村が5万円となっているようですから、市の平均を10万円ぐらいと見積もっても、ざっと12億5000万円ぐらいになります。

 常勤理事等の多くは総務省からの出向で、理事長は旧自治省事務次官の天下りという体制です。ここが、自治体のIT化、つまり電子自治体化の指導、教育をしている。そしてここだけに独占的に住基ネットの全国サーバが置かれ、約1億2000万人の個人情報が集められ、管理されているという状況です。

 集められた本人確認情報を利用するのは、法律に定められた業務に限られることになっていますが、ほとんどが国の行政機関です。住民票を必要としてきたのは、国の事務だからです。センターは、都道府県から委任されて業務を行うため、都道府県から経費を交付金としてもらい、手数料利益も独占する仕組みです。

 こうした構図から手にとるようにわかるのは、国は自治体からおカネと情報を集めて国の事務をやりやすくしたということです。住基ネットは、国によってつくられた国のためのシステムといえます。


●西東京市は18万市民の個人情報を安易に扱った

 もちろん、国のやり方は上手で、住民票コードの付番にしても、番号が重複しないように振り分けるのは都道府県で、振り分けられた番号内で住民にバーコードのように番号を付けるのは市町村にしてありますから、直接、国は関与していません。住基ネットを推進したのも、47都道府県で構成する住民基本台帳ネットワーク推進協議会となっていますし、都道府県から委任を受けて事実上の管理運営を行う地方自治情報センターは財団法人ですから、国の直接的な関与はありません。それで、地方公共団体の共同のシステムですよと大手を振って言うわけです。国民を一元的に管理するシステムではないと言います。形式的にはそういう仕組みになっていますから、それを受けて市町村もオウム返しのようにそう言っております。

 私たちは西東京市に対して、東京都に通知した私たちの本人確認情報を削除してほしい、もとの状態に回復してほしいと申し立てましたが、それに対して西東京市は、削除したり回復したりする権限がないことを理由に拒んでいます。

 市が東京都に通知した情報に対しては、通知側、つまり送信側は手も足も出せない制度だと言うのです。ずいぶん無責任ではありませんか。ネット上で相互に意見を確認し、必要であれば削除できる体制が保障されないとすれば、そのような制度に自己情報をのせてもよしとするものだけに、番号通知を是とする仕組みにすべきです。

 私たちは、住民票コード付番と、個人情報を通知することについて、YESとするかNOとするか、意思を一切問われていません。ずいぶん人権無視のひどい制度です。私の自己情報コントロール権も、西東京市の情報コントロール権もない制度です。こういう制度に、市は無責任に私たちの情報をのせて送ってしまったわけです。西東京市は18万市民の個人情報をまことに安易に扱っています。

 国立市は2002年8月5日に住基ネットに接続しましたが、その後、個人情報がどのように扱われるか総務省に質問を重ね、その結果、12月に住基ネットを離脱しました。個人情報の安全性が確認できない、自治体のコントロール権が確立していないということで、住基法36条の2を根拠に離脱をしております。国立市のような努力を西東京市は一切しておりません。


●形式的なセキュリティ基準では安全性は保証されない

 住基ネットに本人確認情報をのせる際に、市は、住基法36条の2の規定により、個人情報の安全を確保する義務があるわけです。市が、まず私たちの本人確認情報を都に通知する前に何かしたか、何か条件をつけたのか、このことを情報公開請求をして調べてみました。その結果は、「文書不存在」でした。市は、何ら留保なしに都に通知したということです。これは、8月5日以前に、仮にコード番号として東京都に通知されたものですが、8月5日の住基ネット接続時にも再確認するとか、そういうことも一切なく、条件はまったくつけずに、西東京市は接続してしまいました。市がこれで、安全、安全と言う根拠は何なのか、私は非常に疑問に思います。

 実際、当時から現在に至るまで、住基ネットの安全性は保証されていません。住基ネットの回線がインターネットに接続している市町村が全自治体の1割、300はあると総務省が報告しております。インターネットに接続している自治体があるということは、これは外部からの攻撃を受ける可能性が非常に高いということですから、まったく安全とはいえません。西東京市の状態は一体どうなのか。これも確認できておりません。形式的に西東京市のセキュリティ基準が決まっているから大丈夫だと言うばかりです。それをチェックする体制は一切明らかにされておりません。たとえ西東京市のセキュリティ体制の安全性がある程度確保できるとしても、他の自治体のセキュリティが破られて、住基ネット全体に対して被害が起こり得るという状態に現在あるわけです。

 そうした被害が起こらないと言えないのは、国も緊急時対策を定めていることからもわかります。この場合も、あくまで国は地方自治情報センターを通して指令を出す。しかも、わざわざ一元的に行うというふうにされています。こういうことから見ましても、やはりこの住基ネットシステムは、実質的には国がコントロールしているもので、国民を一元的に管理するシステムであることは疑いようもありません。


●コード番号によって罪もなく鉄格子に囚われた人間の叫び

 きょうはパロディストのマッド・アマノさんが住基ネットをパロったイラストがプリントされたTシャツを着てまいりました。「ウシは10ケタ、ヒトは11ケタ」と書いてあり、バーコードが鉄格子のようになって、その向こうには、ムンクの有名な「叫び」に出てくる人物が恐怖で張り裂けそうになっている絵が描かれています。

 コンピュータで識別されるコード番号に人間が取り込まれるのはイヤだ、まるで刑務所に囚われた囚人番号みたいでイヤだという人間の叫びを、これはよくあらわしていると思っていましたが、この番号を市が国家に引き渡したが最後、私たちは番号なしの世界に戻れないということになると、これは、私たちはただの囚人ではなく、終身刑を宣告された囚人ではないかというふうにも思えます。さらに、私たちに有無を言わせずに番号を付けたわけですから、この囚われ人の叫びは、罪もなく鉄格子の向こうに強制収容された人の叫びをも意味していると言えます。

 このような行為は、人間の尊厳を踏みにじるものです。もちろん、肉体的に束縛しているわけではありませんが、精神的には国家によって十分束縛されています。私たちの自由を束縛するものです。自治体は、地方自治法1条2の1で、住民の福祉の増進を図ることが基本とされています。この基本に立ち戻って、この住基ネットのことを考えれば、住民の福祉を増進させるためには何をしたらよいか、基本に立ち返って考え直すべき時期だと思います。今からでも遅くないです。市のこれまで行ってきた処分は、私たちの個人情報の安全を確保するとは到底思えませんから、住基法36条の2に違反していると考えます。

 また、東京都もこのような市の状態を見過ごしているわけです。これはやはり東京都にも都道府県に課せられた安全確保義務というのが住基法30条の29にあるわけですが、これに違反しているというふうにも考えられます。なぜなら、東京都は長野県のように、実態調査もしていない。ですから、安全性を確認していないわけです。この義務を果たしているとは到底言えません。

 市も都も、私たちの個人情報の安全性を確保するためになすべき務めがあるのではないかと思います。それにはまず、住基ネットをここで切断する。それが最上の道ではないかと思っております。