意見陳述−若林京子


日本を管理・監視社会にしないために、市長は決断を

若林京子


 ●はじめに 

 私は格別に取り立てて資格・肩書きのないふつうの平凡な市民でございます。そういう立場で感じていることを申し上げたいと思います。

 私は戦争を体験した者で、軍国主義の教育をたっぷり受けてまいりました。敗戦になりまして大変環境が変わって、今までの価値観を変えろといわれても、なかなかそうはいきませんでした。しかしその後、私もいろいろ学んだり経験したりいたしましていろいろなことがわかってまいりました。やっぱりいわゆる「お上」のなさることに、間違いもあるということです。それがまたある一つの方向に向かってとうとうと流れていくときには、これは警戒しなければならないということを学びました。今回の住民基本台帳ネットワークシステム化は、まさにこの事柄だと私は思っております。

 ●住民基本台帳ネットワークシステム

 住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネットとよぶ)制定のための「住民基本台帳法の一部を改正する法律案」は一九九八年(平成十年)三月に公表されました。

(1)住民票の記載事項に「住民票コード」を加える。
(2) 住所地以外のところで住民票が受けられる。
(3) 市町村長は氏名、住所、生年月日、性別と住民票コード及びそれらの変更情報を都道府県に電気通信回線により通知する。
(4) 本人確認情報保護のための措置  漏えい防止など適切な安全確保措置をとるよう市町村長、都道府県知事の義務を述べ、他人が住民票コードを利用してはならないなどと述べております。
(5) 住民基本台帳カードの発行

 このようなものが国会で一九九九年四月に提案されて、八月十二日に可決いたしました。この中で多くの疑問が出されまして、特に個人情報保護の面で問題提起がありまして、憲法違反とか、国民総背番号制ではないかということがだされました。そして個人情報保護法案の成立が前提で住基ネットを稼動するということであったのに、まだ成立していないのに稼動の法律を出すのはおかしいではないかということも言われておりました。

 この件については、一九九九年六月の国会で、当時の小渕首相が「住基ネットの実施にあたりましては、民間部門をも対象とした個人情報保護に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることが、前提であると認識しております」と答弁しております。 ところが前提が崩れたのに住基ネットはなぜ稼動したのでしょうか。私は権力をもつものの傲慢さをはっきりと感じます。

 私はかつて中学校の教師をやっていましたけれど、もし学級でこういう約束違反を教師がやったとしたらどうでしょうか。「先生、それは約束が違うよ、先生がそういうことしていいの?」ときっと言うと思います。中学生でもわかることを日本の政府は平然とやっています。

 国会ではこの法律が、個人情報が高度に集中管理されることになる危険性から個人情報保護に関して余りにも未整備であるという認識で、可決してから付帯決議を採択しましたが、その中に「法の運用に当たってはプライバシー保護に関する意見を尊重するとともに、地域住民が制度の趣旨を十分に理解できるよう徹底を図ること、プライバシー保護に十分な措置を講ずることにより住民が信頼に足りる制度の確立を図ること」とあります。

 私は西東京市や東京都が住民に対して意見を求めたり、制度の趣旨を十分理解できるようにしていただいたという記憶がありません。また住民が信頼するに足る制度とするようプライバシー保護に十分な措置をどのようにしたのか、一切知らされておりません。全国的に見ても稼動させることで精一杯で、個人情報の保護まで考えられなかったというのが大方の見方です。

 しかし稼動時のトラブルだってすでに起きております。 万全なセキュリティなんてない、といいます。今までに多くの個人情報が漏えいしたり売買されたりしたことを私たちは知っております。どこでも自分のところのセキュリティは大丈夫だと思っていたでしょうが、たとえ自分のところが大丈夫であっても全国どこかに不心得者がいないとはいえません。今までの個人情報に関する犯罪は事項が限定されていましたから、被害もその範囲にとどまっていました。しかし住基ネットは、今後どのくらいの情報量を組み込むのかわかりませんが、十年もしないうちにかなりの情報が組み込まれることでしょう。片山総務大臣は「そんなに心配することはない、氏名、生年月日、性別、住所だけですよ。今までだって住民票にのっていたんだ」なんておっしゃっておりました。それは始めだけです。やがて膨大な情報が組み込まれて、いったんセキュリティが破られれば、その被害は甚大なものになると思います。

 この五月に防衛庁の情報公開請求者リスト事件が発覚しました。情報公開請求をした人の氏名、年齢、住所の外に所属団体、経歴など全く関係のないことを調べて庁内にリストを配布していたというのです。最も信頼すべき国の機関が戦前の特高警察と同質の思想を受け継いできたというのは驚きです。しかもその後の調査では他の省庁でも行なわれていたというので、これは国民の国に対する信頼を一気に失わせることになりました。 多くの自治体の首長や議会が稼動延期の決議や要望書を採択しました。西東京市議会も稼動延期の意見書を決議し、関係大臣に送付しております。それにもかかわらず、市長はなぜ稼動されたのでしょうか。市民の中に市長宛てに質問のお手紙を出された方がいましたが、その市長の回答に「市民の皆さんの個人情報保護を最優先課題と位置づけ、庁内にセキュリティ対策を講じています」とありましたが、こんな程度ではとても市民を十分理解させうるものではなく、「なぜ市民の意見を聞かなかったんですか」の質問についてはほとんど無視した回答でした。

 ●諸外国の事情について

 少し諸外国の事情について述べますと、アメリカ、韓国、カナダ、デンマーク、フィンランド、スウェーデン等、番号制度を取り入れている国はありますが、日本のように膨大な情報量を入れることが可能なICカードを取り入れるようになっている国はありません。アメリカ、韓国では住民登録制度による犯罪が数多く報告されていますが、いったん制度が確立してしまうと後戻りできないといいます。日本の場合、今は国民総背番号制ではないと言っていても、それに道を開くものであることはまちがいありません。十年後どのようになっているのか考えると恐ろしいものがあります。

 日本を管理・監視社会にしないように、また犯罪社会にしないよう、のちに禍根を残さぬためにも、市長は自治体の首長として主体性をもって決断していただきたいと思っております。以上です。