意見陳述−神島由紀子

2003.7.10 東京都庁第一本庁舎25階115会議室

住基ネットの稼働は人権侵害そのものである

神島由紀子(申立人総代)

 私たちは、西東京市に対して、597名の異議申立人の署名を添えて「住民基本台帳ネットワークシステムの接続及び住民票コード記載処分について」、@住民票コードの取り消し、A本人確認情報を東京都知事へ通知したことの取り消し、B都知事に通知した本人確認情報の削除を東京都知事へ請求することの3点について異議申し立てをしましたが、12月17日に棄却・却下の決定がされました。

 私たちは、この決定を不服といたしまして、3月24日、東京都知事に対して、「住基ネット接続及び住民票コード不定に対する審査請求」を495名の署名を添えて提出しました。

 本日は、それに基づいて口頭意見陳述の機会を持つことができたことに対して、まず感謝を申し上げたいと思います。

●市民にとって個人情報の保護とは

 さて、私は住基ネットを考えるに当たって、市民として一番危惧されております個人情報の保護について述べさせていただきたいと思います。個人情報の保護ということは、国民にとってどう捉えるべきかについて考えてみました。

 これまで、国が「個人情報保護法」を成立することによって、「住基ネットは安全」というように自治省、自治体が口をそろえて言ってきたと思います。しかし、本当にそうなのでしょうか。この法律の制定過程を見てみますと、まず「個人情報保護法案」を2001年3月27日に国会上程したものの、メディア規制法案であるとの世論の動きの中で2002年12月に審議未了で廃案としました。これに大幅な修正を加えて再度国会に上程し、5月23日に成立したのですが、修正をする段階でこの法律の根幹部分である基本原則の部分が削除されたため、「個人の権利尊重」の理念が不明確になってしまったといわざるを得ません。

 「個人情報保護」の基本原則は、考えますと、個人情報の取り扱いに関する自己決定権、自己情報コントロール権を尊重し、その権利を保護することではないかと思うのですが、ということは、いつ・だれに・何を、みずからの情報を提供するかは、本人みずからに決定権があるというのが「個人情報保護」の基本原則と考えます。しかしながら、今回の法律は一番重要な部分である基本原則があいまいになってしまい、そのことは、私たちの基本的人権を侵す危険性が最も大といえるのではないでしょうか。そして、このことから考えますと、個人情報を個人の意思と関係なく、一方的に強制的一元管理する住基ネットは、根本的に個人情報保護法となじまないものと考えます。

 今回成立した個人情報保護法は、「事業者など個人情報を取り扱う側にとって使いやすいような内容になっている」と言えるのではないでしょうか。決して国民の権利を守るための法律とは考えられないというふうに私は考えました。


●行政と市民の間に決定的な認識のずれ

 さて、昨年8月に西東京市長が一方的に市民に対して11桁の住民票コードを付け、世帯単位としてはがき1枚で通知してきました。個人情報といいながら、個人を単位としない生計を営む単位である世帯単位で通知してくることこそ、個人情報についての認識が行政と市民の間に決定的にずれが存在しているという証拠ではないでしょうか。この状況の中で、住基ネットの稼動は人権侵害そのものといえると私は考えます。

 また、この法は行政に対しての罰則が設けられたものの、その適用は「自己の利益を図る目的」に限られ、その対象は「個人の秘密に属する事項」に限られております。これでは、先ほど問題になりました防衛庁による世帯主情報や健康情報の取得と保有事件などは、この新法ではプライバシー侵害を有効に規制できないことは明らかになったと思われます。このことからもこの法律でこのような行為を防ぐことはできないというふうに考えました。

 昨年8月以降も全国的に個人情報漏洩事件は、何件も発生しています。この状況を考えると住基ネットだけは大丈夫と、行政も市民もだれも思えないし、また、保証されていないというのが現実ではないでしょうか。


●離脱あるいは選択制導入へ早急な検討を

 西東京市は、西東京市個人情報条例第10条1項に「実施機関は、個人情報を規定する利用目的の範囲を超えて当該実施機関内部もしくは実施機関相互間で利用し、または市以外のものに提供してはならないとしているが、法令の定めがあるときは外部提供ができる」ということで、東京都に通知したことは違法・不当ではないと回答してきました。

 しかし、先ほどから述べさせていただいたいろいろな危惧される事実を考慮しますと、西東京市個人情報保護条例の第1条において「個人情報の適正な取り扱いについての必要な事項を定め、個人情報を保護するとともに、自己に関する個人情報の開示請求などの権利を保護することにより、市民は基本的人権を擁護することを目的とする」ことを定めており、さらに第3条では「実施機関は個人情報の保管等をするときは、市民の基本的人権を尊重するとともに、個人情報の保護を図るために必要な措置を講じなければならない」としております。この状況の中で、西東京市はなんら特別な措置を講じないまま住基ネットに接続しております。このことは、西東京市個人情報保護条例に違反しているといわざるを得ません。そして、市民を擁護するという自治体としての任務を放棄しているといわざるを得ません。

 三鷹市では、先月(7月)12日に住基ネット漏洩対応マニュアルを作成したと報じられておりますが、漏洩する危険性があると自治体が認め対策を立てたわけですから、西東京市ではなんら動きがないことは、市民としては大変残念に思っております。

 私たちは、西東京市が早急に住基ネットからの離脱や、選択制度などを検討するなどして、市民の安全な生活を保障してほしいと考えております。