意見陳述−森總子

2003.7.10 東京都庁第一本庁舎25階115会議室

情報の自己コントロール権尊重は自治体運営にとってもメリットがある

森總子(申立人)

 私は、民間に流れる情報をコントロールできないという立場から、この問題について意見を述べさせていただきます。


●情報は必ず漏れるというのが管理者にとって前提

 まずもって、情報というものはそもそも必ず漏れる、消滅するということを前提にして管理をしていくことが、情報管理をする者の要諦だと思います。今の現在の社会の仕組みを考えたとき、自治体も含めてですが、まったく自分のところで、閉じた形で全部の仕事をしているということはないわけです。たとえば自治体でも、印刷をする、何かの督促をやるとか、お知らせを送るということは、印刷屋さんにある種の個人情報を出すことによって、そこで印刷をしてもらうことで、その業務をこなしている。そういう意味では、ネットワーク型の業務の運営が今の社会の中の基本に置かれているということになります。

 いま現在、住基ネットにつなぐ、つながないにかかわらず、必ず情報が漏れる、情報が外に出ているという状況があるということを前提に物事を考えていかなければならないというふうにまず思います。担当の公務員が意図的に漏らすとか、あるいは自分の利益を図るために漏らさなくても、漏れる状況はすでに存在している。そういうことの上に成り立っている社会の中で住基ネットを使うとはどういうことなのかという点が一番大事だと思います。


●民間に流れていく情報はコントロールできない

 まず、今回、個人情報保護法が一応通りましたが、民間に流通する情報を購入して使うことについては罰則規定がまったくありません。それがたとえ意図的に流されたものであっても、漏洩されたものであっても、それが商品として売られているものを買うということについては、そのこと自体は問題にされておりません。そこに盛られたところの個人情報について、どうやって本人に、第三者に提供する確認をとるのか。現実的な問題として非常に難しいと思います。

 私がこの件に関して、内閣府の個人情報保護担当の部局に聞きましたところ、「まだ政令が定まっていないので、はっきりした答えはできないけれども、インターネットで公開するというようなやり方もあるのではないでしょうか」と言っています。あなたの情報を私が持っていて、それをあなたに許可をとるのにインターネットでどうやって許可をとればいいのでしょうか。私どもが、たとえばだれが持っているかわからないものを、あるホームページで私どもが預かっているあなたの情報はすべて第三者に流しますと言われても、そのこと自体、判断のしようがない。つまり、民間に流れていく情報についてコントロールすることができないという状況であるということです。法律上もコントロールできない。今の法律ではコントロールできないという状況だと思います。

 そこへもってきて、今回の住基ネットの問題点は、もうすでに多くの情報が流れております。現実的に名簿屋さんと称するところは大繁盛で、1枚10円で、いくらでもいろんなところの名簿をかき集めたものが置いてあって、そこで10円のコピー代さえ払えば、いくらでも個人情報をかき集めることができる。合法的に購入することができるということになっています。ですから、すでに多くの個人情報が外に流通しています。そこへもってきて、住基ネットの情報は、まず統一の番号がつけられた。

 私は物理系の学術団体に勤めておりまして、会員組織ですから、当然、番号をつけて皆さんを管理しています。ですが、私のところの学会と、ほかの、たとえば通信系の学会との名簿を2つ合わせたところで、同じところに入っている方がいても、今の状況ではただマッチングしただけでは整理するのがなかなか難しいですね。しかし、統一番号がつけば、まず整備をするためのキー情報として、この住基コードは非常に役に立ちます。それがまず流れていくだろう。何らかの形で必ず流れます。流れていったときに、それが非常に役に立つ情報になる。だから、民間にあふれている情報を整備していくために非常に重要なコードになっていくと思われます。


●コード番号がもたらす「便利さ」とリスク

 次に、流れているさまざまな個人情報をどうやって確定していくのか。確定していくために、生年月日と変更履歴は非常に役に立ちます。

 私たちが実際に預かって業務をしている場合でも、会員番号でぜんぶ管理しておりますので、お問い合わせをいただくときには必ず、「会員番号を言ってください」(と言います)。会員番号は、ご本人が間違えて記憶していたりするケースもありますので、会員番号が違うときには、名前と、次には生年月日です。私どものところには2万5000人ぐらいの会員がいますが、過去5年くらいの履歴も持っておりますので、5万人ぐらいの会員の個人情報を持っています。その中で、同一の氏名で同一の生年月日という人は一人もいません。この生年月日はキー情報です。それと変更履歴が集まれば、どこのだれがどういうふうに変わってきているのか、その人が本当に、Aという情報と、Bという情報があったとして、同じ氏名であったとしても、その人とその人が同一人物であるかどうかというのは、今の状態では非常に不確定な情報です。

 実際に町の名簿屋さんで売られている名簿も、通常、会員組織、あるいは企業の組織でも、生年月日というのは普通の連絡をとるためには全然不要な情報ですから、名簿には普通の状態では掲載されていません。売られている情報にはありません。しかし、こんど住基ネットでそういう情報が一緒に漏れていった場合にはコードが非常に便利です。次に生年月日、それから変更の履歴。これによって、あるどこどこのだれという今まで不確かな情報が1つに確定していく。それを飛躍的に促進していくという意味においては、今回の住基ネットの持っている意味、民間が使いたいと思う、ものすごく欲しい情報だということです。

 情報が流れていくだろうというふうなことを前提にして考えていくと、現在ですらもそういう不確かな情報が流れていても、なおかつ、たとえば多重債務者の人たちに対する非常に犯罪めいたことがもうすでにいろいろ行われています。今までは不確かな情報で、使う業者にとってはあまり有用性がなかったと思われる情報であっても、変更履歴とか生年月日も含めて、1つの情報にまとめていくために、非常に有用な情報が出てくるわけですから、それによって、言ってみればセンシティブ情報というものも自分たちのところで全部ファイル化することが可能になります。そういうふうなところでは、今以上に多くの人たちが犯罪を含めたリスクを負わされる社会が進められていくのではないか。住基コードを使うということ、6情報を電子的に流していくということ自体で、漏れたときの問題がものすごく大きいということをまず自治体側は認識しなければならないと思います。


●分権型社会に相反する住基ネットのシステム

 今、そういう状況の中で、自治体側に求められるものというふうに考えてみますと、非常に複雑化している社会を前提にして、さまざまな個人情報がすでに民間には流れている。そういう中で、自治体は何をすべきなのか。今の基本的な社会の流れとしては、国も含めて、全部の事柄について私たち市民を守り切ることはできないと言っています。それが分権型社会だということだと思います。つまり、それぞれが自分たちでできる範囲のことをしてほしい、だから権限も委譲しますよ、というふうな社会が分権型社会だと思います。その中で、今の住基ネットの問題は、自分たちが負いきれないリスクまでも背負わされて仕事をしていく仕組みになっているということです。自治事務でありながら、漏洩したら、自分たちがその責任もとらなければならないような仕組みになっている。分権型社会と相反する仕組みを持ち込まれているという認識が必要だと思います。

 情報の自己コントロール権──1つは、自分でコントロールしなさいよ、あなたの情報は私がここまでは少なくともインフラを整備しますから、それ以上はあなたのほうでコントロールしてくださいよ、出す出さない、あるいはどこに提供するか、ぜんぶ自分でやってくださいよという、分散していくという意味では、自己コントロール権を認めることは、自治体運営にとって非常に重要なキーポイントだと思います。

 そういう意味では、自己コントロール権を侵害しないようなインフラをつくっていく、そういうシステムをつくっていく、そういう運営をしていくということは、自治体にとってもメリットがあることです。なぜなら、多くの責任を負わなくて済むからです。


●市の負担を増し、職員の士気を失わせる住基ネットからは直ちに離脱を

 一方では、自治体の今の業務は、おカネもないわけですから、当然、少ない人数で多くの業務をこなしていかなければなりません。ところが、今回の住基ネットの業務にかかわる人にとっては、いくら仕事をしても、自分が責任をもって仕事をしても、どこかで漏れて(しまった場合)、その責任は、自分たちがやっている仕事の中の責任として問われていく。そうなりますと、もし私がその仕事をしている立場だったら、仕事のしがいがない。つまり、仕事をするという意欲をなくす仕事なのです。少ない人数できちんとした仕事を効率的にこなさなければならない社会であればこそ、一人一人が意欲を持って仕事ができるような仕組みにしておくということは、自治体の仕事を運営していく上で、非常に重要なポイントだと思います。そういう意味からも、この度の住基ネットへの接続作業は、自治体の職員にとっても士気をなくす仕事であると思います。結果として、自治体全体に対する信頼性をなくしていく。そういう結果を招かざるを得ないのではないかと思います。

 今、西東京市を含めて自治体がとるべき態度、方針は、住民をさらに種々のリスクにさらし、さらにシステム管理も含めて市の負担を増し、さらに職員の士気を失わせるような住基ネット、少なくとも地方自治体とその住民にとってはメリットがないというふうに思わざるを得ません。ですから、ただちに住基ネットから離脱する選択をとるべきではないかと思っています。